ユリレイ現パロ

□゙鴉゙の名を持つ男
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「――…んで、おつまみとかはお客様の前に出してもいいけど、お酒とかは絶対に駄目!邪魔くさくても自分の前に置く事!」
「あぁ…」
「あと、担当の邪魔もしない。あくまでフォローだからね。そうそう!お酒を接ぐ順番は…」

――…嗚呼、何故こんな事になったんだ。

わかっている。全ては自分の安易な発言のせい。
昔、誰かにホストのようだと言われた事はあるが、まさか本当にホストになるなんて…。
あの後、自らをレイヴンと名乗ったこのクラブの店長は「お客さんキャッチしてたら新人キャッチしちゃった〜」なんて言いながら自分を店の中に連れ込み、さっそく店のルールを叩きこみ始めた。
「――まぁ、後は追々かな…もうすぐ営業終わるから、お酒でも飲みながらお話しようよ。一応契約書とかも書かなきゃいけないし。今日は車?」
店の端にある小さなテーブルで、ホストクラブだと言うのに男二人で座る光景は、はっきり言って異様だ。
「いや、歩きだけど…とりあえず、電話させてもらえねぇか?」
「およ、家族?」
「…まぁ、そんなもん」

して来ていいよ〜と言われ外に出れば、既に閉店している店が何件かあった。
(随分長居したな…さすがに寝てるか)
いちかばちかで電話をかければ、すぐに受話器を上げる音がした。
『はい、こちら゙凛々の明星゙探偵事務所』
「…ジュディか…調度良かった、話があるんだ」
手短に今までの経緯を話せば、わかったと返事が返ってきた。
『それじゃあ貴方は、しばらくそのホストクラブに潜入して、アレクセイという人の事を調べるのね?…わかったわ、シュヴァーンの素性捜査はこっちにまかせて』
「あぁ、任せたジュディ」
電話を切り店を振り返れば、営業が終わったのかきらびやかな服を着た女性と店のホストが数人出てきた。
「ありがとうございました!…あ、ユーリく〜ん!!」
店の外に出てきたレイヴンが、自分を見るなりヒラヒラと手を振りながら近付き、いきなり肩を抱き寄せてきた。
「この子ッ!今度から入るうちの新人よ〜!かっこいいでしょ!?ご贔屓にしてねぇ〜!!ね?ユーリくんっ!」
「あ…あぁ」
顔を見た女性が数人、きゃあと言いながら顔を赤らめた。
――…嗚呼、めんどくさい事になった…。
改めて、自分の浅はかさに腹がたった。



「あんた、ホスト経験ないのか!?」
「まぁね〜店に入ってすぐ店長だったし…だいたい七、八年くらいかな〜」
店に戻り、アフターの準備や帰り支度を始めるホスト達を尻目に、先程の小さなテーブルで酒を飲みながら店について聞いていたら、何故か店長の身の上話に発展した。
「前のオーナー、ドン・ホワイトホースってんだけど、これがまたイイ男でねぇ!あぁ、イイ男って言っても顔がいいんじゃなく、なんてーの?人柄って言うか…生まれながらに持ったカリスマ?」
手を振り回してその人物の凄さを現そうとする男。
店長とは思えない程に子供っぽい仕草にユーリは笑いを堪えた。
「…何と無くわかった、とにかく凄い奴なんだな」
「そうそう!職失って放浪してた俺様を拾って、すぐ店長なんて…惚れたねぇ!――…まぁ、そのドンも、もういないんだけど…」
楽しそうに話していたレイヴンだが、落ち込むように顔をうつ向かせると、少し遠くを見る目で、ぽつりと呟いた。
「もういない?」
「死んじまったのさ、五年前に。…あの人が残したのは、この店と自分の孫だけ。当時の奴らはほとんど辞めちまったが、俺はあの人に恩返ししたくて…この店に残ったんだ」
――五年前。
この店でアレクセイと見られる男の写真が撮られたのも、五年前。
――…偶然、か?
「んじゃあ、今は誰がオーナーしてるんだ」
「それは…あぁ、もう遅いや。ごめん青年、俺もう帰らなきゃ」
レイヴンは困ったように眉を寄せ、立ち上がると店の時計を見上げた。
「店長?」
「明日は朝から用事があるから…。そうだ、これ俺の連絡先ね」
渡されたメモには、彼の携帯番号。
「おい…っ」
「さぁ、もう帰らなきゃね!明日から働いてもらうんだから!!」
ぐいぐいと背中を押され、無理矢理店の外まで押し出された。

「おやすみ…青年」

バタン、と店の扉が閉まる。
「――…何なんだよ」
突然の行動に唖然とし、店の前にしばらく立っていたが、風の冷たさに我に戻り、諦めて自分の家…探偵事務所に帰る事にした。
(…なんつーか、変な奴だな)
コロコロ変わる表情や、大袈裟な振る舞い。どこか幼い頃に見たピエロのようだと思った。
(だけど、)
最後に自分を締め出した男の顔は、どこか焦っているような――…怯えているような気がした。
(…どうやら五年前にあの店にいたのはあのおっさんくらいらしいし、しばらく様子見るか…)
忍ばせていた写真をもう一度眺める。
銀髪の男と

(深い茶髪の――女、か)

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