カレン・シュタットフェルトは、星の祈りに生涯、命の続くかぎり護りぬくと誓った。 捧げた剣は、彼を害するものすべてを滅すると天上の神に約束した。 そう、すべては、彼を護る為に。 腰に差す剣をゆっくりと抜く。 星の祈りを葬り去ろうとする輩は、どれだけ排除しようとも、後をたたない。 この剣が、自身が、どれほどの血を浴びたか。もはや、数えきれない。 どれほど、己が汚れようとも、彼を護れるのならば、いくらでも背負う。 それが、カレンが掲げてきた己へ科した願いの証だ。 誰よりも美しく、そして天上の神の寵愛を一身に受け、人々の為に祈る尊き存在。 彼を汚していたのは、誰よりも彼が心を許す相手。 「許さない」 剣を握り締め、祈る。 額に刃先を当て、ただひたすら、彼を案じる。 すっと剣を下ろし、腰に戻す。顔を上げ、見据える先は、王宮だ。 たとえ、罰を受けようとも、見過ごすわけには、いかない。 彼はカレンにとって、護るべき主であり、大切な家族だ。 カレンは、真っ直ぐ、歩き始めた。そこに、迷いはない。 「シュタットフェルト、どこへ行く?」 柱の奥から現れた長に、カレンは目を細める。 「ジェレミア神官長、止めても無駄です」 すばやく剣を握り、刃先をジェレミアに向ける。 「邪魔をするのであれば、たとえ貴方でも、容赦しません」 ジェレミアは剣先を真っ直ぐ受け止め、カレンを見つめる。 「分かっている。止めはしない。これを持っていくといい」 差し出されたのは、一枚の書状。 カレンは眉を寄せ、ジェレミアをにらみつける。 「これは、王宮に入るさいに必要となる許可書だ。門の衛兵には、ルルーシュ様が必要とされている資料を届けに来たといえ。私の名前も出して構わん」 「ジェレミア神官長…」 「立ち止まっている暇はない。ルルーシュ様を、頼んだぞ」 〜 静まり返る王宮は、あまりにも不気味でカレンは顔をしかめた。 漂う空気が、重くのしかかってくるようだ。 神殿も静かな場所だが、あの場所は凛とした清浄さが漂っていて、何時だって心が洗われる。 カレンは、いつの間にか、微笑んでいた。 その空気を作りだしているのは、ルルーシュに他ならない。 何としてでも、連れ帰る。 ルルーシュが王宮に呼ばれて、ゆうに二日は過ぎている。 カレンは唇を噛み締めた。 ジェレミアの言うとおりに書状を門で渡せば、あっさりと許可は下りた。 理由を問われ星の祈りに頼まれた資料を届けに来たと言えば、王宮の一室に通された。 お茶を運んできた女官が下がったのを確認して、部屋を飛び出した。 時間はあまりない。 奥に進むなかで、不意に声が聞こえてきて、カレンは足を止めた。 すすり泣きのような、擦れた声。 悲鳴が上がった瞬間、カレンは走りだしていた。 この声は、紛れもなく、ルルーシュだ。 『どうか、王、もうお止め下さ、い。貴方には、王妃がいる。それに、こんなことが、明るみに出れば、貴方は王の座を追われることになり、かねない。ですから』 合間に聞こえてくる荒い呼吸と喘ぎが、静まりかえった廊下に響き渡る。 『ルルーシュ、何度も言うようだけど、僕は王位などいらない。王妃はただの飾りだ。放っておいていい。言っただろ?僕が欲しいのは、君だけだ』 扉の奥で交わされる会話に、カレンは歯を食い縛る。やはり、思った通りだ。 ルルーシュは、望んでなどいない。 『いや、やめ!!止めて下さい!!』 『うそ。ほら、君の身体は、僕を欲しがってる。もう、こんなに涎を垂らしてる。こっちも、早く欲しいって、ひくついてる』 『違っ!!っ…、あっ!!やだ!!もう、やめ!!』 すすり泣く声に、カレンの中で、何かが弾けた。 気付けば部屋の中、寝台に乗り上がる王の首筋に剣を向けていた。 「盗み聞きかい?趣味が悪いね。ここが何処だか、理解しているのかい?」 ゆっくりと振り返った翡翠に、カレンは背筋を凍らせた。瞳に宿るのは、恐ろしいほどの狂気。 カレンはごくりと息を飲んだ。震える身体を叱咤し、そらすことなく、挑むように睨み返す。 「カレ…ン」 真っ赤に瞳を腫らし、涙を零しているルルーシュに、感じていた恐れが消える。 「彼から、手を離して下さい。星の祈りは、貴方のような者が触れていいお方じゃない」 ついと目を細めた王が、ふんと鼻で嘲笑う。 「君こそ、何様のつもりだ。王に剣を向けるなんて、ただでは済まないよ」 「私は、あんたなんかに仕えていない!!間違えるな! 私が剣を捧げた相手は、星の祈り。ルルーシュだけよ!!」 剣に力を握りしめた瞬間、カレンの目の前を白いシーツが覆う。 払い退ける為に手を動かしたカレンを、鋭い痛みが襲った。 がくんと、その場に崩れ落ちる。 右足を貫き床に突き刺さるのは、王が愛用する長剣。 滴る深紅と鋭い痛みに、カレンは顔をしかめる。 「へぇ、呻き声も上げないとはね。流石、星の祈りの騎士だ」 「ッ…私を知ってる、の?」 「星の祈りの騎士を知らない人間なんか、この国ではいないよ。 剣筋は、なかなか悪くない」 「あんた、なんかに…、褒められたって、嬉しくないわ」 滲む脂汗と、痛みに震える身体を押さえつけ、目の前で見下ろす男を力の限り睨み付ける。 「まだ、そんな余裕があるんだ」 突き刺さる剣を抜き、王が笑う。 避ける間もなく、床に蹴り倒され鳩尾を足で押さえ込まれる。 「ぐっ!!げほっ…」 沸き上がる吐き気と、左肩に走った激痛に、カレンは体を捻った。 「赤の騎士。確かに、君は赤がよく似合う」 見下ろす男の顔が霞む。 カレンは唇を噛み締め、痛みに耐える。 ルルーシュはきっと、これ以上の痛みを感じていたいたはずだ。 それを考えれば、肩と足の痛みなど、たいしたことはない。 「カレン!!」 カレンを庇うようにルルーシュが駆け寄る。両手を広げて、王に向き合う。 乱れた服が、生々しくカレンの目に焼き付く。 「退くんだ、ルルーシュ」 「嫌だ。カレンは俺の大切な家族だ」 ルルーシュの細い肩が震えている。 「そう。君は、優しい人だからね。いいよ。これ以上、彼女には何もしない」 にっこりと微笑み、王が剣をおさめる。 「ルルーシュが、僕を楽しませてくれたらね」 びくりと、ルルーシュの肩が揺れる。 小刻みに震える身体から、するりと衣が床に落ちる。 真っ白な背中がカレンの目に入り、カレンが止める間もなく、ルルーシュは太陽の化身に自ら口付けた。 *** 「ルルーシュ、いいよ。すごくいい」 目の前で繰り広げられるのは、逃げ出したくなるほど生々しい行為だ。 部屋に響き渡る水音は、カレンにとって誰よりも大切な人から発せられるもの。 寝台に腰掛ける王に跨ぎ、カレンに向け大きく足を広げている。 「やぁっ!…っ、あ、うん…、あぁ!!」 自ら腰を動かし、王を体内の奥深くまで受け入れる。 ルルーシュの細い腰を抱きこみ、嬉しいそうに微笑む。 彼の首筋に顔を埋め、堪能するさまは、貪り食らう獣そのものだ。 「ほら、前もこんなにぐちゃぐちゃにして。見られているから、興奮してるの?いつもより、感度がいい」 自身を突然握りこまれたルルーシュは、仰け反り、悲鳴を上げる。 「あ、ほら、また締まった。僕のをぎゅって締め付けてる」 「ち、違っ!!ひっ…、あぁ!!」 クチャクチャと張り詰めた物が滴を溢しはじめ、ルルーシュの身体が小刻みに震えはじめる。 「カレン!!だめ、だ。もう、みな、いで」 泣きじゃくるルルーシュにカレンは、きつく目を閉じる。 身体を動かすことも出来ず、助けることも、出来ない。 だから、せめて、彼の言葉だけでも。 噛み締めた唇から血が流れ落ちる。 震える瞼から、涙が、零れ落ちる。 「あぁ!!いや、もう…」 高い嬌声が上がり、カレンの足に生温い飛沫が散る。 その感覚に、身体が震える。 それは、怒りのためだ。 何も出来ない己と、獣に対してだ。 荒い息遣いとすすり泣きが聞こえるなか、カレンは自分を責め続けた。 NEXT |