ギアス短編

□漣が聞こえる 
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薄暗い部屋の中、ベッドに横たわる真っ白な肌がスザクの目に焼きつく。

震える手で彼の細い肢体をゆっくりと辿る。
意識のないルルーシュの身体を舌と唇で味わっていく。
彼のすべてが甘い、と感じる。

誰よりも大切な人だった。それは、今も変わらない。
愛しいと想いながらも、憎いと呟く己がいる。

ぽつり、とルルーシュの肌の上に滴が落ちる。
続けて一つ、また一つと落ちるたび、身体の中からずっと溜めていた気持ちが流れだす。茫然と滴を見つめるうち、身体のすべてが小刻みに震えだす。
スザクは溢れだす嗚咽をかみ殺すために、全身に力を込め、ゆっくりと息を吐いた。
それでも、流れ落ちる涙を止められない。

「ルルーシュ…」

細い胸板に頬を寄せる。
とくん、と聞こえてくる鼓動に荒く波打っていた心が凪いでいく。
生きている。ルルーシュは、ここに、いる。

それを実感した瞬間、胸の内から熱い鼓動がこみ上げる。
身体を起こし、ルルーシュの髪を梳く。そして、額に口づけ名を呼ぶ。

「ルルーシュ」

憎んでいい、嫌いでもいい。

ルルーシュの中でスザクという人間が少しでも残るならば、それでもいい。

愛してる。

その一言すら呟けない己にはそれで十分だから。

だから、今晩だけは、愛する人のすべてが欲しい。
流れ落ちる涙をそのままに、愛撫を再開する。



ゆっくりと蜜を零しはじめたルルーシュ自身に口づける。
しっとりと汗ばんでいる肌がうっすらと赤く色づいている。
後孔に指を増やせば、ルルーシュの眉間に皺が刻まれる。
内壁を弄るたびに蠢く熱にスザクの体温が上がっていく。

部屋の中に自身の荒い息だけが、大きく響く。
それが可笑しくてならなかった。

「ルルーシュ」

やわらかく解れた後ろから指を引き、力の抜けている足を掲え上げ、彼の中に入っていく。
とたんに感じる熱さと絡みつく内壁に、詰めていた息を吐き出す。
ここに入るたび、心にぽっかりと空いた穴が満たされる。

「ルルーシュ、愛してる」

自然と零れ落ちた言葉に、動きを止める。じわじわと胸に広がるのは、くすぐったいような心地よさだった。

愛してる。
もう一度呟いたとき、ルルーシュが微笑んだ気がした。
それに驚いたスザクだったが、少しだけ微笑むと、ルルーシュの首元に顔を埋めた。





***




朝の日差しに気づき、ルルーシュは目を覚ました。
やけに頭がすっきりしている。そのことに、少しだけ驚く。
昨日、たしか遅くまで書類を手にしていたのは覚えているが、それ以降の記憶がないことに眉を寄せる。
そして聞こえてきた声に顔をしかめる。

「起きたか、ルルーシュ」

当然とばかりに部屋に入り、ベッドに腰かけたC.C.を睨みつける。

「ノックぐらいはしろと言っているだろ」

「何を今さら。それより、身体は大丈夫なのか?」

問われている意味が分からず、ルルーシュは首を傾げる。
何となく気だるいが、別に異常はない。

「どういう意味だ」

「分からないなら構わない。後でスザクに礼を言えよ。書類を捌く途中で寝こけたお前を運んだのは奴だ」

来たときと同じように、言うだけ言ったC.C.は用は済んだとばかりに部屋を出ていった。
不思議な女ではあるが、こんなにも歯切れが悪いのは始めてかもしれない。
何故、彼女は自分を心配したのだろうか全く分からない。

「何なんだ?」

途中で意識がなくなるほど、自分は疲れていて、だから大丈夫なのか、という問いかけだったのかもしれない。
たしかに、最近スザクとのこともあって睡眠不足だった。

ふと、昨日見た夢を思い出した。
スザクに抱かれていたのだが、いつもの情事のように冷たいものではなく、優しくあたたかいものだった。
触れる手は優しく、辿る唇は丁寧なものだった。そして、己に向けてスザクはささやくのだ。愛してる、と。

鮮明に蘇った夢に顔が熱くなる。

「馬鹿馬鹿しい」

何度となく行為はあったが、優しいことなど一度もなかった。自分たちの行為は性欲処理以外に何の意味ももたない。
まして、スザクは己を憎んでいるのだから愛をささやくことなどあるはずがない。
スザクにとって、愛する者は異母妹のユーフェミアであり、己ではないのだ。
ルルーシュは唇をかみしめた。

スザクに抱かれる夢を見るほど、自分は彼を想っているのだろう。
それが虚しくてならなかった。
沈む気持ちを切り替えるためにおき上がりシャワーを浴びようと、浴室に向かう。
服を脱ぎすて、コックを握れば、熱い湯が流れだす。
頭からかぶる中で、目に入ったのは目の前にある鏡。首筋を見た瞬間、目を見張った。

「なん、で…」

そこに咲くのは一つの深紅。
昨日までなかったそれは、鮮やかに咲き誇っていた。ゆっくりとなぞる手が震えてしまう。
昨日見た夢が頭をよぎる。
愛してる、と。彼はささやいていた。優しく触れていた手は夢ではなかったというのか。

いつの間にか、熱い滴があふれ出していた。身体が震えだし、熱いものが込みあげてくる。
C.C.の問いかけが耳の奥に響く。

気づいては、ならない。気づいてはならないと、何度も心でつぶやく。

伝えてはならないかの人への想いが、細波のように何度も胸を響かせる。
朝の光の中で、ルルーシュは泣き続けた。


end
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