果てしなく広がる空。 銀色に輝く星が辺り一面に降り注ぐ丘の上で、彼女は言う。 「そうね、それはたぶん次の満月だわ」 長い桃色の髪は腰まで伸びたが、彼女――ユフィは結うことを嫌い、ありのままであることを望んでいる不思議な少女だ。 この村の掟では、女は十五になれば一人前とされその証に髪を結う。 ユフィは今年で十六だ。 変わり者と呼ばれている彼女は、毎晩、夢を視る。 ――そう、未来の夢を。 ルルーシュは丘の上、隣に座った妹の横顔を見つめる。 ユフィは微笑みを浮かべ、空に向い手を伸ばす。三日月の淡い光の中で、彼女の纏うゆったりとした白いブラウスが浮かびあがる。 赤いベストと同じ赤い膝までのスカートには、村に咲く花の刺繍が縦にほどこされている。 彼女の十六の誕生日にルルーシュが縫ったものだ。 膝を抱え、彼女が歌うように囁く。 「真っ暗なそらの向こうで、声が聞こえるの」 「声?」 「そう、とても小さな声。ずっと、泣いているの。地上が恋しい、恋しいって」 この地に受け継がれている創世神話。 太古、闇の中にあった“始まり”から大地と水と空が生まれた。 そして、生まれた大地から、動物と植物と人が生み出されたという。 新たな大地で、歩み始めたそれぞれの種族たちは、それぞれ異なる生活を送りながらも、調和を持ち、同じ場所でともに暮らしていた。 だが、長い年月を経て、少しずつ調和を無くしていったもの達がいた。 ――それが、人である。 人が調和を失くし、他の種族たちを滅ぼしかけたとき、大地は悲しみに暮れ、その懐を揺らした。 大地の深い悲しみを感じた人は調和を取り戻し、ともに嘆いた。 けれど、調和を取り戻せなかったものたちもいた。彼らは地上を去り、跡形もなく消え去ったという。 「真っ暗で怖い、怖いって泣いているの。でも、私はちっとも怖くないわ。だって、ルルーシュの髪と同じだもの」 ほっそりとした白い手がルルーシュの髪に触れる。 烏の濡れ羽色とも言われ、褒められるがルルーシュは好きではなかった。 ルルーシュは正真正銘、男であるが外見だけを見れば、女に間違われることも少なくない。 骨格が生まれつき一般男性より華奢であり、親譲りの雪のように白い肌が日に焼けることはない。 なにより、会った者に深く印象づける少し吊り上がり気味の瞳は、時折地上から見つかる宝石のアメジストと同じ深い色である。 美しいと評されるが、ルルーシュとしてはユフィの淡い紫色の瞳――夜明けの空と同じ色の方が好きだ。 ユフィは瞳を空に向け、呟く。 「ルルーシュ、私を信じて。お願いよ、あなたの力が必要なのよ」 彼女が笑う。 見つめる先には、きっと自分では分からない未来が視えているのだろう。 彼女は、夢見(ゆめみ)。 未来を予言する巫女。 「来るわ」 丘の上で、巫女の名を持つ夢見が予言する。それは、始まりだった。 next |