朝日が昇り、そして、また一日が始まる。 眩しい朝日が差し込むプラットホームに立ち、ルルーシュはふっと息を吐いた。 あの日の胸の痛みは、未だに立ち去ることなく、彼女の胸にとどまり続けている。 忘れようと、何度となえても、よぎるのは、彼の姿で。 そのたびに、強く強く、心に刻み込まれてゆく。 好きだと気付かなければ、こんなにも、思い悩むことはなかったのか。 ルルーシュには、分からない。 電車が到着する。 扉の先は、人混みで溢れている。 ルルーシュは、知らず知らずのうちに顔をしかめる。人混みは、苦手だ。 この時間帯は、学生とかち合うため、自然と人は多くなるが、それでもあえて、電車を一本遅らせた。 顔をしかめながらも、電車に乗り込む。 もう、彼に逢う勇気は、ルルーシュには、残っていなかった。 電車が発進し、揺れ動く。 各駅に止まるたびに、人は増えてゆく。 ルルーシュは入り口付近に立ち、身体をさらに小さくする。 再び扉が開き、入ってきた男子生徒たちがくぐるたび、息苦しさがのしかかってくる。 圧迫感と、込みあうなかでうまれる熱気、騒めき。 どれも、不快で仕方ない。 頭がくらくらして、軽く吐き気がしはじめたときだった。 ふと、人混みが揺らいだ。 息苦しさが途切れ、やわらかな空気が、ルルーシュを包みこむ。 顔を上げた瞬間、息を飲んだ。 目の前にいたのは、逢いたいと願っていた人だった。 鮮やかな翡翠の瞳が、こちらを向き。 途端に、胸がきゅっと締め付けられた。 「大丈夫ですか?」 ルルーシュの頭の少し上に手を置き、屈んで彼が問い掛ける。 気付けば、彼に守られるかのように、立っていた。 辺りを包みこむのは、朝風に似た爽やかなかおり。 さっきまで感じていた息苦しさが、ふっと消える。 心配そうに覗きこむ彼に、顔が火照りはじめる。 ルルーシュは慌てて、頷くのが精一杯だ。 もう、顔を上げることが出来なくて、俯くしかなかった。 それでも、微かに、彼が微笑んだのがわかった。 時間が、止まったようだった。 がたりと電車が大きく揺れ、反動でルルーシュの身体が不安定に揺れる。 あっと思ったときには、大きな腕に包まれていた。 「危ないから、掴まっていて下さい」 差し出された腕に、戸惑い、顔を上げると、優しい笑みがおりてくる。 そっと手を取られて、腕に掴まれば、彼の微笑みがさらに和らぐ。 「あ、……すみま、せん」 それが、精一杯で、震える身体を支えるのがやっとだった。 全身が、熱をもち、震えが治まらない。 それでも、心地よいと、このままもう少しだけ。そばにいたいと想ったのは、本当だから。 沸き上がる想いに、ルルーシュは、目を閉じた。 END |