真実があるとするなら、どうか、教えてほしい。 欲しかったのは、大切な人が幸せでいられる世界。 己が犯した罪の重さも、憎しみも恨みもすべて、受けとめるから。 だから、もう、何も失いたくはない。 一斉に向けられる銃と、憎しみに染まった瞳。 黒の騎士団のメンバーから次々に発せられる恨みのこもった声と罵声。 視線の先にかつての異母兄の姿を見つけ、ルルーシュはすべてを悟った。 シュナイゼルがいるということは、全ては終わったのだろう。 ゼロの正体を今更隠す必要もない。 仮面に手を伸ばし、ルルーシュは素顔をさらす。 漆黒の髪が舞い、息をのむ音が聞こえる。 「俺たちを騙していたのか!?」 仮面を外し、己の素性をさらした今、ルルーシュにはもはや何も残されていなかった。 守ると誓った唯一は、すでに失われしまった。 己の命は、ゼロの名を負ったときから。 いや、ブリタニアを壊すと決めたときから、とうに捨てている。 ルルーシュは鳴り響く銃声に目を閉じた。 銃声が鳴り止み、静寂が戻りはじめる。 そこに渦巻いていたのは、確かな高揚感。 悪を打ちとったのだと、自らの行動に酔いしれる道化がいるばかりだった。 自分たちこそが正しいのだと、踊らされていることに気づくことなく歓声を上げる。 だが、舞い上がる白煙が、静かに引いてゆく中、現れた人影に黒の騎士団のメンバーは息をのんだ。 確かに撃ったはずなのに、ゼロであった少年は無傷で立っていたのだ。 「本当、話になんないわ」 彼の前に、剣を掲げ守るように立つ人物に、息をのんだのは一人ではなかった。 銃弾の脱け殻が床一面を覆いつくす。 役目を失った弾が転がる乾いた音が、静寂に満ちた空間に響き渡る。 その音に重なるように、床を踏みしめる靴音が高らかに交差する。 「情けないわね。大の大人が子供を苛めるなんて、どういう神経してるのかしら? それも、一斉に銃を撃つなんて、あんたたち最低だわ」 長く腰まで届くであろう深紅の髪を後ろで一つに束ねた彼女は、黒の騎士団を睨み付ける。 その碧い瞳は、怒りに燃えている。 凛と背筋の伸びた肢体はまろやかであり、剣を構える姿はしなやかだ。 ナイト・オブ・ラウンズの騎士服に似た服を纏い、怒りを顕にする。 彼女の姿は、黒の騎士団エースパイロットである彼女と瓜二つだった。 しかし、幾分年が上に見える。 そのことに驚き、声を上げたのは、立ち並ぶ銃弾を持つ者たちである。 「カレン、が何で・・・」 扇が呆然と呟けば、彼女は顔をしかめる。 まるで不愉快だと言わんばかりの表情を隠すことなく見せる。 メンバーたちは困惑するしかなかった。 そして、はき捨てるように、彼女が言い放つ。 「馴々しく名前を呼ばないでくれる?あんたたちに呼ばれるだなんて、虫酸が走るわ。 だいたいねぇ、子供を守るのが私たち大人の役目でしょうが!なのに、銃を向けて、殺すですって!?ふざけるのも、大概にしなさいよ」 怒りの為に身体を震わす彼女の背を、ルルーシュはただ見ているしか出来なかった。 何が起こっているのか、まるでわからないでいた。 「あ、あんたに何が分かる!!俺たちは、そのガキにずっと騙されていたんだぞ!」 「そうだ!俺たちを駒扱いしやがって!」 死んで当然なのだと口々に上がる罵声に、彼女は声を張り上げた。 「ふざけるな!!お前たちは、どこまで人のせいにすれば気がすむ!!お前たちの望みは何だ!? 故郷を取り戻すことだろう!?そのために自分の意志で、戦ってきたんだろう!? この子だけを責めて、お前たちは恥ずかしくないのか!?」 罵声を飛ばしていた者たちは、次々と口を閉ざした。 「それに、紅月カレン!!お前は、ゼロの親衛隊隊長だろう!! 騎士であるお前が、この子を守らなくてどうする!!」 目の前にいたカレンを睨み付け、怒りを顕にさせる。カレンは身体を震わせた。 この場を支配しているのは紛れもなく突然現れた赤髪の騎士である。 「で、でも・・・。ルルーシュは、私たちに嘘を・・・」 「だから何?その理由を本人の口から聞いたの? 一方的な情報を鵜呑みにするあんたたちこそ、私は信じられないわ。 そんなあなたに騎士を名乗る資格なんてない」 剣先を真っ直ぐ黒の騎士団に向けて、彼女は告げる。 「我が名は、カレン・シュタットフェルト。 我が主の命により、ゼロ、いえ、ルルーシュ。私はあなたを守る」 告げられた言葉は、凛とあたりに響き渡った。 NEXT |