現代パラレル

□海に溶けたラブレター
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スザルル現代パラレル。

*俺スザクです。

*死ネタあり(はじめから死んでいます)
苦手な方は、ご注意ください。


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海に溶けたラブレター



ルルーシュが死んだ。
心臓麻痺だった。

彼が心臓を患っていたなんて、俺は知らなかった。


トンネルを抜け、タクシーの窓から海が見え始める。
淡く黄色みがかった空の下、あの日と変わらず、海はそこに存在していた。
紺碧に浮かびあがる、水平線のすぐ側を、車で走り抜ける。
手を伸ばせば、すぐに揺れ動く海面に手が届きそうな距離。
潮のにおいまで、届いた気がして、反射的にガラスに手を伸ばしていた。
運転していた時には、気づきもしなかった。

『スザク、見ろ!海だぞ!』

透き通った水面から、すぐに顔を出した岩が大小並んでいた。
海底の砂模様まではっきりと見える。
遠く広がる海を、太陽の光が濃く深く碧く染め上げていたのは、去年のことだ。
海がこんなにも、穏やかな色をしていたなんて、知りもしなかった。

『スザク』

ガラスに反射した海の中、色を失くした自分がそこにいた。






タクシーを降りると、白い砂浜が静かに広がっていた。

誰もいない。

吹き抜ける潮風だけが、あたりにこだましている。
取り残されたビーチサンダルが、砂に半分埋もれていた。
まだ、少しだけ、肌寒い春風も、初夏を過ぎ、梅雨を終えれば、板で囲われた海の家も、
この砂浜も、海も、また賑やかな声に満たされるのだろう。

けれど、もう、ここを訪れることはない。

一歩、一歩と踏み出すたび、安定しない足場が崩れてゆく。
靴底から感じるさらさらと頼りない砂の感触がして、泣きたくなった。
流れ続ける砂は、形を止めることなく風に流され、彷徨う。
その姿が、今の自分のように見えた。

言いようのない不安に襲われて、気づけば、靴を脱ぎ棄てていた。

踏みしめた砂は、柔らかい。
重みで沈んだ足を包み込むように触れてくる。
砂の感触に唇を噛みしめ、腕に抱いたルルーシュの遺骨を抱き締めた。

もう、ぬくもりも、何もない――。
彼は、死んだのだ。
顔を上げ、見据えた先に、ルルーシュがいない。

「ルルーシュ……」





病室に駆け込んだ時には、もう、ルルーシュは息をしていなかった。
朝方、心臓発作を起こしたのだと、彼の父親が言った。
傍には、妹のナナリーと弟のロロが肩を寄せ合い、泣いていた。
彼もそれだけ言うと、背を向け、肩を震わせていた。
男手一つで三人の子を育てている彼は、いつも朗らかで快活な人だった。
母親がいなくても、笑顔の絶えないあたたかな家庭。
ブリタニアの血を受け継ぐルルーシュと、父親である彼に血の繋がりはなかった。
それでも、彼はルルーシュを引き取り、我が子と同じように愛していた。

仕事人間の父親と外に男を作る奔放な母親。

家に居場所を見つけられなかった自分を優しく迎え入れてくれたのは、ルルーシュだった。
そして、彼の家族だった。



朝日が照らし始めた病室。
真っ白な空間の中で、ルルーシュは静かに、眠っていた。
その安らかな顔には、死ぬ間際の苦痛は見えなかった。
苦しかっただろうに、唇に淡い微笑みを浮かべていた。
今にも、起きて、笑ってくれる気さえした。

震える手で、ルルーシュの髪を梳く。
艶やかな、絹のような黒髪は、いつもさらさらとしていて、つい触ってしまう。
そんな自分に向って、彼はいつも怒っていた。
怒りながら、笑っていた。

ルルーシュと、名を呼んでも、彼は、もう、目を覚まさない。
分かっているけれど、止められなかった。
何度も、何度も、彼の名を呼んだ。
視界が霞み始め、全身が震えだしても、止められなかった。

どうして、彼が、ここに?

昨日まで、笑っていたのに。
この腕の中で、微笑んで、また明日。

そう言った彼は、もう、いない。

触れた頬は、ぬくもりを失くし、握りしめた手は、もはや冷たかった。




ぼんやりと海を見つめる。

直ぐそばを、冷たい潮風が吹き抜ける。
ルルーシュの声が聞こえた気がして、手を伸ばしても、帰ってくることはない。

ただ、通り過ぎていった。

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