現代パラレル

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なあ、ルルーシュ――。
ずっと前から、決めていたことがあるんだ。

お前に言おうって。
誰にも言ったことはなかったけれど。
お前には、伝えようと、思った。

愛しているって――。

なのに。




「馬鹿野郎、死んでんじゃねえよ」

腕の中のルルーシュは、もう、何も言わない。
途切れることのない潮騒だけが、あの時と変わらず、あるだけだ。

「馬鹿野郎……」

吹き抜ける風と共に、ルルーシュの声が聞こえて気がして振り返った。

寄せては、引き――。
大海原に舞い戻る波折りは、いくつの海を旅してきたのだろう。
広い海で、あの時ルルーシュに触れた波音は、今もどこかで変わらず響きつづけているのだろうか。

届かないのは、分かっている。
それでも、彼の名を呼ぶことを止められない。

止めてしまえば、身体だけでなくルルーシュのすべてを失くしてしまいそうで。
恐怖感が募った。

もう、何も失いたくなくて、遺骨を抱き締めた。
強く、強く、抱き締めた。
あいつは、ここいる。

でも、もう。

いないんだ――。


ふと、ルルーシュに呼ばれた気がして、打ち寄せる波に近づけば、あっさりと飲みこまれた。
泡立つ波が、足を埋めていく。

「冷たいな……」

触れた波は、冷たい癖して、穏やかに俺を包み込み。
それが、意外なほど優しくて、目頭が熱くなった。
一歩、踏み出してみれば、今度は強く打ちつけてきた。

一度、二度、と繰り返されるたび、あの日の記憶が鮮明に夢を見せる。
波に攫われた砂が巻き上げられ、肌を擽ってゆく。

海は変わらずここにあるのに、ルルーシュが、いない。

彼が、いない。

何度触れても、あの時の心地よさは戻ってこない。

「ルルーシュ……」

あいつは、どうして。
俺に何も言わなかったのだろう。愛してたはずなのに、肝心なことを知ってやれなかった。

あいつに何もしてやれなかった。
そんな不甲斐無い俺を。
お前は、どう思っていたんだろう。




波が引いたときだった。

「お客さん。そのままだと、風邪をひくわ」

聞こえた声に振り返れば、ここまで俺を運んでくれたタクシーの運転手が立っていた。
ゆるくウェーブがかった黒髪を背で一つに縛り、紺色の制服を身に着けている。
白い肌は、日本人ではないことを強く印象付ける。
赤い口紅が、やけに目についた。
その人は、腕を組んで俺を見つめていた。

「あの、何か……」

料金が足らない訳でもなく、ここにいる理由が。
自分に声をかける意味が分からなくて問いかければ、苦い笑みが返ってきた。

「その、……あなたのことが気になって、ね」

「え……?」

「あなた、“海のラブレター”を取りに来たんじゃないの?」

「海の、ラブレター?」

初めて耳にする言葉だった。
問われている意味が分からなくて困惑していると、その人は肩を竦め、目を伏せた。

「駄目ね、私の悪い癖だわ」

真っすぐ俺を覗きこんだその人は、やわらかく微笑んだ。
けれど、泣いているように見えるのは何故だろうか。

「あなた、枢木スザク君ね。ルルーシュから、聞いていたわ。
はじめまして、私はマリアンヌ。ルルーシュの母親よ」

そう言って海を見つめた彼女は、ルルーシュとよく似ていた。

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