ギアス短編

□宇宙(そら)の音
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生まれ変わった二人。
スザクさんが、求め続けているのは?








そっと、覗き込めば、暗闇の中に見える小さな光。

その一つ一つが、宇宙を形作る惑星であり、僕たちの知らない命が、存在しているのかもしれない。

星は何も語らない。

それでも、望遠鏡の小さな世界から、広大に広がる宇宙を追い求める。

それが、僕の仕事であり、地球の産まれた故郷をひたすら見つめる。
まだまだ知らないことばかりで、どれだけ探求したとしても尽きることはない。
焦がれて、焦がれすぎるほどに宇宙を見続けるのは、何故だろうか。

こんなにも、惹かれて止まないのは。



「お〜め〜で〜とぉ〜!!それが、宇宙の神秘だよぉ〜!」


「おわっ!!」


にっと、望遠鏡から覗く視界を埋め尽くしたのは、上司の顔で、僕はとっさに声を上げていた。
度アップで、その上、突然顔を出すのは止めてほしい。
にやにやとメガネを持ち上げる姿に、軽く殺意が湧く。

心臓が止まるかと、本気で思った。今だって、早鐘に打つ心臓が痛いくらいだ。


「ロ〜イ〜ドさん!!いつも言ってるじゃないですか!
突然顔出すの、止めて下さいって!心臓に悪いんですってば!!」


「え〜、だって君ぃ、望遠鏡見出したら、僕らの声、聞こえないじゃないか。
ねぇ、セシルく〜ん」


へらりと笑いながら後ろにいた上司の助手を務めるセシルさんに同意を求める。
セシルさんは困った顔をしながらも、はっきりと告げる。


「ごめんなさい、スザク君。もう何度も呼んだんだけど、気付いてないみたいだから」


休憩にしましょう、と珈琲を差し出される。

時計を見れば、天体観測をはじめて、ゆうに三時間は経過していた。
天文台のドームを開いた先に見える夜空は、闇を深め、秋だと言っても冷たい空気を纏っている。

受け取ったマグカップは、とても温かくて、思いの外、手がかじかんでしまっている。
一口啜れば、ほっとため息が零れ落ちた。


「ありがとうございます」


礼を言えば、笑顔が返ってくる。
僕は、真上に広がる夜空を見つめた。


「ロイドさんは、何故、宇宙を見つめるんですか?」


白衣を身に付けた上司は、身体を捻りつつ首を傾げている。
いつも思うけど、この人の前世て軟体動物なんじゃないかと思う。
へらりと笑った上司は、空を見上げて呟いた。


「探すためじゃないかな。僕らが産まれてきた理由を」


「え?」


「人ってさ、何で自分は産まれてきたんだろぉ〜、とか、何で生きてるんだろうって、一度は考えるでしょ?
でもさぁ、そもそも、この地球がさ、宇宙が存在していなければ、僕らは存在していないんだし、
宇宙に僕らの存在意義を求めたって、構わないんじゃないかなぁ。君はどう?」


「僕は‥」


そう、だ。

僕は、探していたんだ。
枢木スザクという、僕が産まれてきた理由を。ずっと。


「そう、ですね。僕も、そう思います」


広がる宇宙(そら)の果ては、どこに存在しているのだろうか。
例えば、そらを旅する流星は、何かを探し続ける僕らの姿なのかもしれない。
大切な何かを求め続け、夜空を巡り続ける。

彼らが求める大地を見つけたとき、それを運命と呼ぶのかもしれない。


「僕も、探しているのかもしれません」


それが、何かは分からないけれど、きっと。


「あは〜、今思い出したんだけどぉ、明日一般公開の日だから、お迎えよろしくねぇ〜」


「はい?」


「あれぇ、言ってなかったっけ?だ〜か〜ら〜、明日ここを一般公開するんで、予約が入ってるんだよぉ。
で、君には、麓までお客さんたちをお迎えに行ってもらうことになってるんだけど?」


了解?と問い掛けてくる声が遠く感じる。
そして、はたっと気付く。

「もう夜明けまで、二時間切ってるじゃないですか!?」


「あは〜、本当だぁ」


「笑ってる場合じゃないですよ!ほら、早く明日の準備しないと!」


散らかしてある今日とったばかりのデータを必死で片付ける。
何でもっと早く言わないのかと、心の中で叫んだ。







***





結局、一睡も出来ず、僕は迎えの為に、小型バスに乗り込んだ。
天文台があるこの場所は、観測に影響がないよう人工の光が届かない山奥に造られている。
その為町に下りるにはかなりの時間を要する。
ほとんど泊まり込みで観測を続けるため、外にでるのも久しぶりだ。

眠っていないせいで、差し込む朝日の光が眩しくてならない。
だいたい予約で訪れる人たちは、町に通る唯一の電車に乗り継ぎ、何時間もかけてやってくる。
そして、ようやく到着したかと思えばさらに車で数時間要することに愕然とするのだ。

もう何度となく見てきたが、やっぱり気の毒に思ってしまう。
それでも、天文台で宇宙(そら)を見た人たちは、皆本当に顔を輝かせる。
いつも宇宙を見つめている僕も、その笑顔を見つめているだけで嬉しくなるんだ。


「えっと、確か、今日は十五人だっけ」


車を駅前に止め、降りる。
上司に渡された名簿を手に駅に入る。
馴染みとなった駅員のおじさんと窓口のおばさんに会釈をすれば、笑顔で送り出される。

プラットホームに立ち、電車の到着を待つ。

聞こえてきた電車の音が徐々に近付き、反対側に到着する。
降りてきた人たちが、予約の人たちだろう。
名簿を捲り、ただ待つ。

電車が動き出し、降りてきた人たちの姿が見え始める。
電車が通り過ぎた瞬間、見えた姿に、僕は目が離せなくなった。


黒髪のほっそりとした少年。
家族らしき人たちと笑いあっている。
ふと、彼がこちらを向く。
見えたのは、アメジストの大きな瞳。
目が合った瞬間、彼も驚いたようにこちらを凝視している。


ようやく、見つけた。

僕が探していたものを。

僕は、きっと彼に逢うために、産まれてきたんだ。

彼が僕に向け、微笑む。


いつの間にか、僕は泣いていた。



END

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