時〜明日の夜明けの対のお話。 ゼロレクイエム後。 スザクの前に現れたのは、過去の記憶だった。 強き願いに出逢ったのは、過ぎた時の中だった。 あの夜一度だけ会った少年は、歴史の節目となり、儚い命を散らした。 世界は再び、動きはじめる。 それが、どこへと向かうのか、それは誰にも分からない。 番人は、ただ、流れゆく時を見つめる。 ある日、番人は気付いた。 刻々と移りゆく時間の中で、一人、過去の記憶に取り残された少年がいた。 それは、あの黒髪の少年の願いそのものであった。 彼は、嘆き続けていた。 過ぎ去った過去を。 苦しいほどの想いと共に。 ふと、過去の扉が震えた。 時を越えて届いたのは、彼の少年が残した、あの夜のただ一つの強い想いだった。 番人は目を閉じ、時の流れに身を任す。 目を開けると、ふわり、と地に降り立っていた。 短い時の中で、これほど多く地上に触れるのは、稀である。 自身を呼んだのは、過去から未来へと届いた強い願いだ。 降り立った先は、どこかの一室。 ベッドと小さな机が置かれた寂しいすぎる真白い空間だった。 そこにただ一つ、存在する異質なもの。 一つの仮面が壁に掛けられていた。 まるでそれだけが、部屋の中から弾かれているようだった。 「誰だ‥」 低い、不信感をあらわにした声が番人に届く。 その人物は入口の扉の前に立っていた。 深くかぶったフードから見えたのは、翡翠の瞳の幼い顔だちの少年だった。 黒を基調にした衣を纏う少年。 途方に暮れた幼子に見えた。 聞こえてきたのは、抱えることの出来ぬ後悔と、行き場を失った感情だった。 「何故、あなたは明日を拒む」 強い眼差しは、空虚で何も見てはいない。 少年は確かに、絶望していた。 ここに、今この時に存在しているはずなのに、少年の心は、過去にいた。 「悪いが、私の姿を見た君には死んでもらう」 腰にある剣に手を伸ばした少年に、番人は再び問い掛ける。 「何故、明日を拒む」 剣先が番人の纏うフードを切り裂き、ぱさりと床に落ちる。 少年は零れんばかりに、翡翠の瞳を見開いた。 「ルルーシュ…?」 問うた声は、弱々しくかすれたものだった。 番人はすでに気付いていた。 目の前の少年が、過去に捕われているその理由を。 己の容姿は、きっと、彼の少年と同じ漆黒の髪と紫水晶に変わっているのだろう。 「私は、時を守る者。流れる時を見つめ続ける番人」 「え…?」 「過去から未来へと続く扉の前で、私は聞いた。あなたへと願う想いを」 番人はそっと目を閉じた。 感じるのは、あの夜の声。 あの時感じたすべてを、言葉に委ねる。 「愛してる。誰よりも、何よりも。だから、どうか生きてほしい。明日を、未来を」 一つ一つ、噛み締めながら、番人は言った。 あの夜見た彼の少年の涙を、ちりじりになりそうな心を。 すべて、伝える為に、番人は翡翠の少年を見つめる。 あの日、彼の少年に呼ばれた理由は、今この為なのだと番人は思った。 「ルルーシュ…、僕は‥」 目の前の少年の翡翠の瞳から、一つ、また一つと雫が零れ落ちる。 それはいつしか、少年の心を縛っていた想いも解き放ってゆく。 「ルルーシュ!ルルーシュ、僕は!!…僕は、君といきたかった…」 震えはじめた身体が、床に崩れ落ちる。 「愛し、て…る…、僕も君を愛してる」 彼の少年の名を繰り返し、繰り返し呼びながら、少年は泣いていた。 もう、届けることの出来ぬ想いを、ただひたすら呟き続ける。 それは、悲しい叫びだった。 END |