ギアス短編

□黄昏の行く末
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時〜明日の夜明けの対のお話。

ゼロレクイエム後。
スザクの前に現れたのは、過去の記憶だった。










強き願いに出逢ったのは、過ぎた時の中だった。

あの夜一度だけ会った少年は、歴史の節目となり、儚い命を散らした。

世界は再び、動きはじめる。

それが、どこへと向かうのか、それは誰にも分からない。

番人は、ただ、流れゆく時を見つめる。

ある日、番人は気付いた。

刻々と移りゆく時間の中で、一人、過去の記憶に取り残された少年がいた。
それは、あの黒髪の少年の願いそのものであった。

彼は、嘆き続けていた。
過ぎ去った過去を。
苦しいほどの想いと共に。

ふと、過去の扉が震えた。
時を越えて届いたのは、彼の少年が残した、あの夜のただ一つの強い想いだった。

番人は目を閉じ、時の流れに身を任す。


目を開けると、ふわり、と地に降り立っていた。
短い時の中で、これほど多く地上に触れるのは、稀である。

自身を呼んだのは、過去から未来へと届いた強い願いだ。




降り立った先は、どこかの一室。
ベッドと小さな机が置かれた寂しいすぎる真白い空間だった。
そこにただ一つ、存在する異質なもの。
一つの仮面が壁に掛けられていた。
まるでそれだけが、部屋の中から弾かれているようだった。


「誰だ‥」


低い、不信感をあらわにした声が番人に届く。
その人物は入口の扉の前に立っていた。
深くかぶったフードから見えたのは、翡翠の瞳の幼い顔だちの少年だった。
黒を基調にした衣を纏う少年。
途方に暮れた幼子に見えた。

聞こえてきたのは、抱えることの出来ぬ後悔と、行き場を失った感情だった。


「何故、あなたは明日を拒む」


強い眼差しは、空虚で何も見てはいない。
少年は確かに、絶望していた。

ここに、今この時に存在しているはずなのに、少年の心は、過去にいた。


「悪いが、私の姿を見た君には死んでもらう」


腰にある剣に手を伸ばした少年に、番人は再び問い掛ける。


「何故、明日を拒む」


剣先が番人の纏うフードを切り裂き、ぱさりと床に落ちる。
少年は零れんばかりに、翡翠の瞳を見開いた。


「ルルーシュ…?」


問うた声は、弱々しくかすれたものだった。
番人はすでに気付いていた。
目の前の少年が、過去に捕われているその理由を。
己の容姿は、きっと、彼の少年と同じ漆黒の髪と紫水晶に変わっているのだろう。


「私は、時を守る者。流れる時を見つめ続ける番人」


「え…?」


「過去から未来へと続く扉の前で、私は聞いた。あなたへと願う想いを」


番人はそっと目を閉じた。
感じるのは、あの夜の声。
あの時感じたすべてを、言葉に委ねる。


「愛してる。誰よりも、何よりも。だから、どうか生きてほしい。明日を、未来を」


一つ一つ、噛み締めながら、番人は言った。

あの夜見た彼の少年の涙を、ちりじりになりそうな心を。
すべて、伝える為に、番人は翡翠の少年を見つめる。
あの日、彼の少年に呼ばれた理由は、今この為なのだと番人は思った。


「ルルーシュ…、僕は‥」


目の前の少年の翡翠の瞳から、一つ、また一つと雫が零れ落ちる。
それはいつしか、少年の心を縛っていた想いも解き放ってゆく。


「ルルーシュ!ルルーシュ、僕は!!…僕は、君といきたかった…」


震えはじめた身体が、床に崩れ落ちる。


「愛し、て…る…、僕も君を愛してる」


彼の少年の名を繰り返し、繰り返し呼びながら、少年は泣いていた。

もう、届けることの出来ぬ想いを、ただひたすら呟き続ける。


それは、悲しい叫びだった。



END

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