パラレル2

□5
1ページ/1ページ


ふうと一つ溜息をついた時だった。聞こえてきた声は懐かしいもの――。



「どうした、ルルーシュ」



顔を上げると姉が立っていた。長い桃色の髪はユーフェミアと比べて色濃く鮮やかである。赤い上着

は膝まで届き、歩くたび颯爽と翻る。ぴんと背筋を伸ばし、前を見据える姿は凛凛しく、そして美しい。赤く闘争心に溢れた星を護る聖冠――自慢の姉がルルーシュの前に膝を折ると優しく問いかける。



「浮かない顔をしているな。何か辛いことでもあったのか?よかったら相談にのるぞ?」



膝に置いた手を取られ、両手で包みこまれる。そのぬくもりに涙が溢れた。

急に泣き出したルルーシュに姉コーネリアは目を丸くして驚いていたが、それはすぐに優しい笑みに変わる。

ルルーシュの隣に腰掛けるとその細い肩を抱き寄せた。



「大丈夫だ、ルルーシュ。大丈夫」



泣き続けるルルーシュをあやす彼女の囁きが優しく辺りに響き渡った。

姉のぬくもりに包み込まれている間、ルルーシュは今まで抱えていた想いをすべてさらけ出していた。



スザクの願いと、星の想い。

自分の心に抱く葛藤と痛み。



コーネリアはただ静かにルルーシュの話に耳を傾けていた。

ようやく涙が止まり、落ち着いたのを見計らい、彼女はぽつぽつと語りだした。それは彼女が聖冠となり、日々歩んできた軌跡。



「私もはじめは戸惑ったものだ。こんな自分が星を導いてゆけるのか、と。だが、毎日不安に駆られる私の傍にいつもいてくれた者がいた」



姉が幸せそうに微笑む。ルルーシュの脳裏に浮かんだのは、いつもつき従っていた青年の姿だった。大きな体躯といつも厳しい表情をしていた彼もまたスザクと同じ道を選んだ流星だった。姉の傍にいると瞳を和らげ、穏やかに微笑むその人は、星と同化を果たしたが聖剣を受け取ることはなかったという。



「あやつが私の静止を振りきり、星の欠片を手放した時は本当に辛くていつも泣いていたものだよ」



苦笑いと共に紡がれた言葉にルルーシュは驚いた。初めて聞くことだった。



「運よく私の星と同化を果たしたが、あの時のような想いは二度と御免だ。お前をそう思うだろう?」



問われて素直に頷く。



「だが、あやつは言ったよ。たとえ流星でなくなったとしても、自分は命を賭けて私を護ると。――彼もまたそうではないのかな? 聖剣であろうとなかろうとも、彼らは聖冠を護ると誓った流星。彼を信じてやれ」



微笑む姉は輝きに充ち溢れていた。



「さあ、お戻り。彼らが心配しているだろう」



姉に促され、星へと繋がる聖壇に向かう。歩き始めた足はいつの間にか駈け出していた。緑と水に溢れた景色が恋しくてならなかった。

   







扉を抜けた瞬間、ルルーシュの身体は力強い腕に抱きしめられていた。薫る匂いはこの大地そのもの。



「……スザク」



「もう、帰って来てくれないんじゃないかと思った……」



ルルーシュの肩に顔を埋め、スザクが呟く。その身体は驚いたことに微かに震えていた。ルルーシュは目を見開いた。



「スザク?」



「……君が嫌なら、僕は聖剣でなくてもいい。だから、いなくならないで」



ぎゅっと抱きしめられる。その声があまりにも小さくて。――胸が痛んだ。震え続ける背に手を伸ばせば、驚いたように身体を揺らす。頬に当たる彼の茶色い癖毛に指を通し、撫でてやれば震えはすぐにおさまった。そして顔を上げたスザクは翠の瞳を丸くしてルルーシュを見つめてくる。

(怖いのは、同じなんだな)

自分は彼がいなくなれば今度こそ立ち上がれないだろう。

それと同じように彼もまた、自分が消えることに怯えている。



――星と聖冠は一心同体。



彼もまたこの星そのものなのだと改めて気付かされた。見つめる先にある光は、この星を覆う豊かな森と同じ色。



彼のぬくもりが、声が、眼差しが。

彼を形作るすべてが愛おしい。



だから――。



「聖剣を受け取りに行こう」



これからも共にあるために――。



差し出した手に温もりが重なる。

視線の先にいる彼が柔らかな笑みを浮かべ頷く。ルルーシュは今度こそ微笑んだ。



それは、新たな聖剣が知れ渡る少し前のお話。











END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]