今までも、そして、これからも、ずっと――。 この星と共に――。 高いビル群が立ち並ぶ一角、レンガが敷き詰められた広い公園の中央。水の女神を模った像を真ん中に抱いた噴水の淵に腰かけたのはひとりの青年だった。 黒い艶やかな髪が、風が吹くたび、さらりと揺れる。ほっそりとした肢体を包むのは白いシャツと薄手の黒いパーカーと同色の細見のパンツ。袖から覗く肌は驚くほど白い。 彼は濃い紫の瞳を細め、静かに呟いた。 「変わったものだな、この世界も」 その声は穏やかで、優しい。まるで愛しい恋人に囁くかのように彼はひとり呟き続ける。 「でも、花と緑と豊かな海はあの頃から変わらない。あの子たちに託したのは間違いじゃなかった」 かつてこの世界は豊かな森と海に囲われ色とりどりの花が咲き乱れる楽園だった。だが、それは一度終焉を迎える。 地上からすべての命が消え失せ、始まったのは乾き切った大地に覆われた世界だった。 その大地を嘆き、かつての楽園を忘れられなかったひとりの青年を救ったのはひとりの少年だった。彼は大切な人のために水を求め、そして頑なに心を閉ざしていた青年の心を解き放った。そして再び訪れたのは、自然と歩み寄ろうとする人々が暮らす世界だった。 座る青年の前で、小さな女の子が駆けていく。向かった先はいくつも並んだ分別ボックス。女の子は手に持つペットボトルを指定された場所に入れていく、その背を見守るのは若い夫婦。一生懸命に分けていく女の子の背を優しい眼差しで見つめている。 「できた!」 歓声を上げ、戻ってきた女の子を両親が笑顔で迎える。それは穏やかな光景だった。 青年は遠ざかる三人の背を見送り、微笑んだ。 豊かな水を取り戻した世界は歩みを進めていくうち、またしても人による破壊が始まった。それを見つめていた青年が悲しげに顔を曇らせた時、世界は少しずつ変わり始めた。人々が自ら壊し荒らした大地を癒し始めたのだ。 伐採された森に新しい苗木を植え、育て始めたのだ。そして川を、海を汚していた事実に気づいた彼らは汚さないように浄化設備を作り出し、護り始めた。 それは不思議な光景だった。それと共に、ずっとこの地上を見守り続けた青年は溢れる涙を止められなかった。 青年は大地が荒らされるようになったとき、再び声を上げたのだ。もう、これ以上星を荒らさないでくれと。星が泣いているのだと。 その呼びかけに、人は気付いてくれた。それが嬉しかったのだ。 「ルルーシュ、何を見ているの?」 ふと声をかけられ振り返れば、茶色い髪の青年が立っていた。ブルーのロングジャケットを翻しながら、黒髪の青年の元へと駆け寄る。 「いや、ずいぶん様変わりしたと思ってな」 茶色の髪の青年は翠の瞳を和らげ、彼の隣に腰掛ける。そして広がる空を見つめて笑った。 「本当だね、昔と比べてずいぶん変わった」 ――でも。と翠の瞳を青年に向け、囁く。 「皆、君の声を覚えている。どんなに姿形が変わっても、それだけは変わらない。これから先もきっと」 その言葉に青年は紫の瞳を細め、頷いた。 「さあ、行こう。今度はアフリカかな。密猟があとを絶たない。動物たちがいなくなるのを皆悲しんでいる。早くしないと絶滅してしまう。それだけはとめないと」 前を見据えた翠の瞳は力強い光を宿している。差し出された手を握りしめ、青年は立ち上がった。 「ああ、行こう」 ――この星と共に、いつまでも ****** かつてこの世界には聖冠と呼ばれたものがいた。 彼らは光を自ら生み出し、そして星を導き、星と共に歩む。 今は誰も知らない――。 星たちだけが知る事実――。 だが――。 それは今も続いている。 今、この瞬間も――。 彼らは歩み続ける。 この星と共に――。 end |