パラレル2

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「青騎士伯爵だと……、まさか」



ルルーシュは微笑みを浮かべる青年を呆然と見つめた。



十六世紀—

エリザベス女王が統べる宮廷にアシェンバート伯爵という人物がいた。青騎士伯爵の子孫だという彼は世界中を旅してきた冒険家であり、自分が見聞きした不思議な逸話を人々に伝えたという。

今も語り継がれる「青騎士伯爵・妖精国からの旅人」という本は有名である。



妖精国(イブラゼル)を治め、人と妖精を繋ぐもの。青騎士伯爵と呼ばれていた人物はもともとエドワード一世に仕えていたものだったという。

王の片腕として戦い、その身に宿る不思議な力で妖精たちと触れ合った。

のちに青騎士伯爵はエドワード一世の元を去り、妖精国(イブラゼル)に向かったという。

だが、去る間際青騎士伯爵はこんな言葉を残した。



「王がお呼びになるならば、いつなりと馳せ参じましょう。私はいつまでも陛下の臣下。ですが妖精国はこちらとは時間の流れが違います。

向こうでの一年がこちらでは百年にあたることも、また向こうでの十年がこちらでは数日ということもございます。

ですから陛下いつ何時も私がまたは、私の子孫が陛下の元に戻ってまいりましてもどうかそれと分かっていただけますように」



するとエドワード一世は青騎士伯爵に一つの剣を渡した。海を守護するメロウが刻んだスターサファイヤを掲げた宝剣を。

そして、エドワード一世の名のもと、いつ何時であろうとイングランド国王は青騎士伯爵を認め宮廷に迎え入れる、と。





ルルーシュは信じられなかった。

確かに史実には何度か青騎士伯爵が英国宮廷に現れたと記されているが、それが今自分の目の前に存在するなどと夢ではないかと思ったのだ。



「嘘だろ……」



ぽつりと呟いたルルーシュに青年は「ひどいな」と苦笑いを浮かべ肩をすくめた。

ゆっくりと近づいてきて青年に自然と身体が強張る。

それに気づいた彼はそれ以上距離を詰めることなくソファーに腰かけた。そして足を組むとリラックスした様子で開け放たれたままの扉に声をかけた。



「カレン、ジノ、入ってきていいよ」



訝しみながら扉を見つめていれば黒い上着を纏った男女が入ってきた。一人は金色の髪と青い瞳の青年。もう一人は男装した赤毛の女性だった。碧い瞳には勝気な光が宿っている。

ワゴンを引き、静かにお茶の準備を始める。

彼がこの部屋の持主で、彼らは召使いと言ったところだろうか。

翡翠の青年が本当に青騎士伯爵ならば、英国で爵位をもつ貴族ということだ。

そんな人物が自分に何の用なのか。ますます訳が分からない。



立ち尽し警戒したままのルルーシュに彼が席を進める。

無言を貫こうかとも思ったが、今のままでは何も分からないままだ。憮然としたまま反対側の背ソファーに腰掛ければ深い笑みが返ってきた。

目の前に差し出されたティーカップからダージリンの香りが立ち上った。

芳しい香りに誘われるまま、口をつければほっと心が安堵したのを感じた。



「どうかな?気に入ってもらえるとうれしいんだけど」



素直に頷くのも癪だが、返事を返さないのも気持ちが悪い。

一つ頷けば、彼は嬉しそうに笑った。それが青年を幼く見せる。



「で、青騎士伯爵であるあなたが俺のような一般人に何の用ですか?」





「つれないね、せっかくの美人がだいなしだよ?」



男に美人はないだろう!!と怒鳴りたい気持ちを押しとどめ、なんとか微笑みを返す。

(この男、本当にあの伝説の青騎士伯爵なのか?)

正直に言って胡散臭い。

確かにたち振る舞いは上流貴族と言ったところだが、ふりをするぐらいなら少し練習すれば何とかなるのではないか。まして、目の前の人物は自分を無理やり連れ去ったのだから。

浮かべている微笑みさえも嘘で固められているように見えてしまう。

ルルーシュは不信感を隠すことなく青年を睨みつけた。



「本当に青騎士伯爵であるならば、もちろんあの伝説の宝剣をお持ちなんですよね。スターサファイヤに彩られたメロウの宝剣を」



挑むように睨みつければ、青年の翡翠の瞳が細められた。


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