現代パラレル2

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室内に響いた甲高い電子音に、ぴたりと動きが止まる。鳴っていたのは、枕元に置いてあったスザクの携帯だった。幾度も点滅を繰り返すそれに、スザクは大きく息を吐くと馬乗りになった俺の身体をそっとベッドに下し、中から出ていく。その瞬間、身体を震わせ嬌声を零した俺を宥めるように口づけを落としてきた。そしてゆっくりとおき上がった。

「……、もしもし……、うん、大丈夫だけど……。うん……、うん……、それは金橋さんとこのだよ、そう、来てもらった方がはやいと思うよ。……ああ、番号? ちょっとまって、携帯に入ってる……、うん、また確認してから連絡する」

一旦携帯を切ったスザクは気だるげに髪をかきあげ、再び溜息をついた。めんどくさいとでも言うように、珍しいことに眉間に皺が寄っていた。

仕事の電話だろうか。無理やり中断されて内心苛立っていた俺だが、それは俺だけじゃないらしい。スザクも俺との時間を邪魔されたことに憤っている。そう思った瞬間、さっきまで感じていた怒りがなりをひそめ言い知れぬ満足感に満たされた。

横たわったままスザクを見上げ、くすりと笑んだ。

なにかを調べるように携帯を弄り始めたスザクはそんな俺の視線には気付かない。そっと起き上がる。

携帯を再び耳にあてたのを合図に俺はベッドに腰かけたスザクの前に身体を滑り込ませた。ちらりと視線を上に移せば、驚いたように軽く目を見開くスザクと視線が合う。ちょうど電話が通じたようだった。頭上で聞こえる会話に耳を澄ませながらさっきまで俺を翻弄していた熱に手を伸ばす。びくりと彼の身体が震えたのを感じた。でも、これで終わりじゃない。唇を寄せて舌で撫で上げれば、微かな溜息が聞こえてきた。唇をよせたまま見上げれば、快感に耐える翡翠がこちらを睨みつけてきた。  

その視線に身体がぞくりと泡立つ。

「その番号にかければ担当に直接つながるはずだから……、うん……、っ! そうだよ……何? ……変って?別に、何でもない、よ」

徐徐に口に含む範囲を広げていけば、どんどん荒くなる息。大きく張り詰めた屹立をもう一度口に含んだ時だった。

ぐいと頭を抑えられ、動きを止められる。何だと睨みつければ『大人しくして』と音を出さずに口が動いたのがわかった。

途中で中断する羽目になったのはスザクのせいだろう。その意味をこめて再び舌を這わせる。口の中に広がる独特な苦味。それすら今の俺には快感に繋がるものだった。さらに質量をましたそれを口におさめようとした時だった。ふと背中を撫でる手に気付いた。スザクの少し汗ばんだ手が後ろに回った瞬間、たまらず声を上げていた。

「あッ! ん、んっ」

慌てて口を塞ぐが、中に入ってきた指を反射的に締め付けてしまう。

「……え? 気のせいだよ。誰もいないって」

くすくすと笑いながらスザクが言う。携帯を耳にあてたまま、俺の中を好き勝手いじり続ける。口を手で押さえていても、荒い息とともに微かな喘ぎが漏れてしまう。

一番好きなポイントをあえて外し、それでも指をばらばらに動かしてくる。さっきまで二本だった指はいつの間にかさらに増えていた。

もどかしい疼きが身体全体に広がる。もっと直接的な刺激がほしいと身体を揺らしてみてもスザクが楽しげに見下ろすだけだ。

俺を抱くスザクは本当に意地悪だ。悔しさと与えられる刺激に涙が浮かんでくる。

ようやく通話が終わったのか携帯を放り出した姿が霞んだ視界に見えた。と同時に求めていた強い刺激に身体がびくりと跳ねた。何度もそこを刺激され、悲鳴のような声が自分の口から漏れた。

「あっ! や、すざく」

「こら、駄目じゃないか。いたずらする子にはお仕置きが必要だよね」

浮遊感がしたと思ったら膝にのせられ頬を軽く抓られる。そんなことされたことがなくて驚いたままスザクの綺麗な翠の瞳を見つめる。どうしたの、と首を傾げながら問いかけてくるけど答えられなくて。怒った?と今度は頬を撫でられ、軽く触れるだけのキスを送ってくる。

こんな触れ合い、初めてだ。くすぐったいような恥ずかしいような。胸の奥がじんわりとあたたかくなる。何故か泣きたくなって、慌てて目の前の首にしがみつく。

「どうしたの?」

そっと背中を撫でられ、髪を梳かれる。官能的な動きじゃなくて、まるで小さな子供にするようなその動き。自分よりも大きくて広い胸。温かいぬくもり。優しい手。 

彼のすべてに胸がいっぱいになる。また、泣きたくなって、それを誤魔化すためにスザクの耳に齧りつき、続きを強張る。聞こえてきたのはやはり優しい笑い声だった。

ベッドに二人で倒れ込み、さっきまで包んでいた熱を取り戻そうと動き出す。これ以上、考えてはいけない。想ってはだめだと言い聞かせるために迫りくる快楽の波に意識を委ねた。



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