パラレル2

□She has come to know something like love.
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中央統合管理室。



膨大な生き物たちのデータが集められるその場所は死を司る役目を負うもの達にとって最も重要な拠点である。中央に置かれた大モニターを前にして、多くの者たちが忙しなく動き続けている。集うものは皆様々な色の上着を着用しているが、その色にも重要な意味がある。黒は死した魂を黄泉へと導く役目を主に負っている。また、緑を基調としたもの達は自然界に属する者たちを導く役目を負っている。この中央統合管理室で働く者たちは全身を茶色いコートで覆っている。茶は万物を表すもの、すなわち、すべての始まりを意味する。茶色のコートを纏った者たちは大モニターを制御し、膨大な生き物たちのデータを管理しているのである。そんな中その光景を見つめる者がいた。



管理室二階待機所。

窓ガラスから見える大モニターをただひたすら見つめる青年。白いジャケットを纏い、翡翠の目を細める。白は光そのものを意味し、迷い彷徨う魂を導く光とならんが為、光を失ったもの達にその光を届ける役目を負っている。それが白の上着を纏うもの達の真の役目である。だが、その力を発揮する場所は通常の者たちと異なる。彼らが力を発揮する場所――それは。

「おう、スザクじゃねーか!」

聞こえてきた声は馴染みのあるもの。大モニターを凝視していた青年――枢木スザクは振り返ると声の主に向い笑顔を浮かべた。

「おう、リヴァル! 久しぶりだな! ずいぶん顔見てねーけど、どこ行ってたんだ?」

青い髪は外に跳ね、苦笑いを浮かべる青年もまたスザクと同じ白いジャケットを羽織っている。彼の名はリヴァル・カルデモンド。スザクの古くからの友人である。彼もまた、スザクと同じ管轄で仕事をしている公私ともに同士である。

「あ〜、今回はマジで参ったぜ。歪みに巻き込まれた集団の所に言ったんだけどさ」

深い溜息とともに項垂れる姿は久しく見ていない。今回はよほどのことが起きたのだろう。スザクは労わりを込めて彼の肩をポンポンと叩いた。

「何があったんだよ?」

「マジ聞いてくれるか?」

「おう、何でも言えよ」

――実はと続いた言葉に長年働いているスザクも溜息をつかずにはいられなかった。

「時の流れから完全孤立した歪みだったんだが」

時の歪みとは本来の流れより枝分かれしてしまった亜空間とでも言うか。その原因はさまざまであり、大抵は強い思念により生み出されることが多い。

――すなわち。

怒りや悲しみ、後悔や恨み、つらみ、そう言った負の感情により生み出されるそれらは正常の時の流れの中、常に生まれるものである。だが、それも時が流れるにつれ消えてゆくものである。だが、問題なのはそこではない。あまりに強すぎる想いは、歪みを巨大化させ、さらには本来の時を圧迫してしまうことがあるのだ。圧迫された時は正常なながれを維持できず、時そのものの動きが止まってしまう。 

そうなれば、世界は存在できなくなる。過去・現在・未来と三つの流れが滞りなく過ぎゆくからこそ、世界は進んでゆくのだから。その時を正常に動かす役目を負うのが時を司る番人であり、そのサポートをしているのが白の上着を纏う彼らなのである。歪みの原因を作りだす成仏できない魂を黄泉へと導く役目を負っている。それが彼ら――白の上着を纏うものたちである。

「巻き込まれてすでに百年以上は経っていただろうに奴らは自分が死んだことすら気付いてねーの。歪みを作った原因は、すぐに取り除くことが出来たけど、思念で作られた町に住んでる奴らを説得するのがさ。――まあ、もともと巻き込まれた奴らだから被害者って言えばそうだろうが――」

一人の昇華できない想いは時の歪みを作り出し、その思念により作られた街並み。彼らは巻き込まれた後もその場所でいつもと同じように生活を続けていたという。誰も年を取らず、ほとんど変化のない空間で生活を営む。それを百年以上続けるなど、スザクはぶるりと背筋が寒くなった。まともな精神ではない。いや、歪みに巻き込まれた時点で彼らの思考も歪まされたのかもしれない。

「そいつらと会話したけど、正直俺は二度と御免だ。あんな世界は――。楽園って言っていたが、俺には永遠に続くただの牢獄にしか見えなかったよ」



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