パラレル2

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肩をすくめるリヴァルにスザクもかたを竦め返す。確かに、それは生きているとは言わない。

「――で、帰ってきたってことは無事すんだんだろ?」

「まあな、今回ばかりは番人三人がかりだぜ? 絶対人選、間違えてるぜ。それこそ、お前んとこに回した方が早く片がついただろう」

リヴァルの言葉に苦笑いせずにはいられない。確かに彼の言うことは正しいだろう。巨大な力で過去の管理をたった一人で行っているのだから。誰も成し遂げたことのない。過去という膨大な記録を管理する者――過去の番人である彼ならば一日と立たず、歪みを元に戻したはずだ。だが――。

「残念だが、俺のとこにも指令が下ってたんだよ」

「司令?」

「おう、あれだ――」



“――番人の秘密”

 

声を出さずそっと囁けばリヴァルは顔を引き攣らせた。

「まじ、かよ……」

「マジだ……」

気まずいほどの沈黙が下りる。先日向かった指令は口に出すのも憚れるほどの秘密を抱いたものだった。かつて、番人の王が一介の番人として働いていたころ犯した番人の中でも最大の禁忌――時への関与を起こした場所だったのだ。

当時の番人の王、並びに上層部により緘口令が敷かれたが、スザクたちのような番人の補佐を行うもの達は皆一様に知っているのもまた事実だった。いや、番人たちの補佐を行うことが決まった時点で上から教えられたことの一つだった。それは最重要項目の一つであり、ゆえに同じ死を司るものでも白の上着を着るもの以外は知らない。教えられると同時にまた誓わされるのが絶対黙秘の約束事である。いかなることがあろうと決して秘密を漏らさぬと書面とともに固く誓わされるのである。それは二度とあのような悲劇を生む出さぬためのものであり、もし番人がその危険を起こそうとすればすべての力を持って排除するよう番人の王と上層部に命じられている。死を司る彼らは命のあるものすべての鍵を握っているのだから。それはもちろん、己の命も同様である。

「あれ、か……?」

「おう、あれだ」

「―――まじかよ!」

そう叫びをあげ、頭を抱える友人兼同僚に苦笑いせずにはいられない。使える番人たちには知らされていないその事実は、まさに彼らの命を自分たちが握っているといっても過言ではないのだから。

けれど、持前の立ち直りで早くも落ち着いたリヴァルは興味津々と言った様子で問いかけてくる。禁忌に触れるのは御免だが、純粋に興味があるのだろう。

「な、なあ、マジ同じ奴いたか?」

「おう、初っ端から俺と同じ顔と会ったぜ」

番人と瓜二つの皇帝にもあったが、何故かそれを口にする気になれなかった。

「マジかよ!」

「そんで、扉の守護――あいつだ、うちの番人をえらく崇拝してる奴」

「ああ〜、あのかわいこちゃんか」

「……可愛いって。あれが、か?」

過去の番人である彼を神の如く敬愛し、崇めまくる姿が脳裏に浮かぶが、あれは可愛いう範疇では絶対ない。むしろ凛凛しいとさえ思ってしまう。

「お前……。そんなだから、まだ彼女の一人もできねーんだぜ?」

「うるーよ! 女なんてただ五月蠅いだけだろ?それに俺にだって理想ってもんがあるさ」

「へえ〜、女嫌いのお前にもそんなのあるんだな!」

感心したように何度も頷く姿に本気で腹が立つ。自分の周りにいる者はどうして皆、神経を逆なでする奴らばかりなのだろうか。

彼女――。確かに自分は女という生き物が好きではない。むしろ、嫌いに分類されるだろ。だからと言って、理想がないわけではない。真っ白な肌と抱きしめてしまえば折れてしまいそうなほど儚い肢体。けれど、前を見据える瞳は常に力強い光が宿っている。その瞳を彩る色はあの世界で見た皇帝のように澄んだ紫がいい。髪は常夜と同じ黒で指を通せばさらさらと心地よく、耳に届く声は胸を弾ませるほど艶やかな人。そこまで考えたところで、ふと思考が止まった。何故か分からなかったが、不意に脳裏をよぎったのはいつも顔を合わせる番人の横顔。どくりと胸が戦慄いた。かっと顔が上気し始める。

(何だ、これ……)

胸の奥がやたらと疼く。その先に答えがあるような気がするが、手を伸ばしては行けないと警鐘が鳴り響く。思考と身体がちぐはぐな動きを見せ、スザクを翻弄してゆく。堪らなくなって、胸元を押さえた時だった。

「――おい!」

肩を掴まれ、顔を上げれば心配そうに覗きこむ友人がおいた。

「どうしたんだよ、急に黙り込んだかと思ったら苦しいそうな顔して俯くし――。まだ、前回の指令の疲れがとれてねーじゃねーの?」

先ほどまで巡っていた熱が瞬時に冷め、冷静さが戻ってくる。いや、今考えていたことは何だったのだろうか霧の奥に隠された思考を読み取り事が出来ない。

「――何の話だっけ?」

「……はあ? マジ、お前大丈夫かよ」

早く休めと言われるが、それは出来ない。引っ切り無しに入ってくる指令は待ってはくれない。心配しているリヴァルとて、前回の指令から帰ってそうそうここに来たはずなのだから。目の下にうっすらと浮かぶ隈がその証拠だ。

「大丈夫だ。――それより、ほら、来たぜ?」

扉の向こうから近付いてくる気配にスザクは息を吐いた。どうやら次の指令が決まったようだ。自分か友人が先か――。扉が開くと同時に中に入ってきたのは茶色いコートを着た女性だった。長い水色の髪を頭上高く一つに縛っている。

「枢木さん、指令が下りました」

入室してきたと同時にスザクに持っていた書類を手渡す。一番上に掲げられていたのは一枚の写真。そこの映し出されていたのは一本の朽ちた木だった。倒れることもなく、生前と変わらぬ姿で立っている。

「この木の周辺に発生している歪みですが、前回・前々回と調査を行いましたがいずれも原因不明。恐らく過去に何かが起こり、それが歪みとなって現れた可能性があります。ルルーシュ様に至急お取次ぎ願えますか?」

説明を聞きながら書類を捲っていたスザクは管理室からの要請に一つ頷きを返した。

「了解した」







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