企画用に書いたお話です。 古代ローマかギリシャあたりをモチーフにしたお話。 ※死ネタあり 反逆の狼煙を上げよう。 誰よりも愛するかの人を奪ったこの国を。 決して許しはしない。 「ルルーシュ」 海に育まれ大きく繁栄した王国。 だが、一人の青年によって今まさに崩壊しようとしていた。 熱気に満ちた広場で掲げられる。それはひとりの青年を中心としていた。 翡翠の瞳を怒りに染め、腰に掲げていた剣を抜き去り、空高く伸ばす。振り降ろされた刃の先は、王が住まう城。眼前を埋めるのは多くの同氏たちだ。皆、かの王の独裁により愛する人たちを失った。 目を閉じ、ゆっくりと息を吐く。 瞼の裏に見えたのは最後に見た彼の綺麗な微笑み。 「行こう、皆」 戦いの火蓋は切って降ろされた。 ***** 長い夢を見ていた気がする。 懐かしくて、切なくて、愛しくて――。 すべては、彼と共にあったのだ。 彼と初めて逢ったのは十五の時だった。 父が仕えるヴィ家は他国とも貿易をおこなう国の中でも有力な貴族だった。海に程近い屋敷に急に呼ばれたのだ。その理由をスザクは理解していた。父は自分を後継者として早くから決めていたし、幾度もヴィ家の当主とも顔を合わせたことがあった。珍しく女性が当主を務めていたが、他の者たちと引けを取らないほど威厳に満ちていたのを覚えている。長い黒髪が艶やかで、いつも微笑みを絶やさぬ朗らかな女性――マリアンヌは国一番の美貌を持つ者として広く知れ渡っていた。笑顔で『これからよろしくね』と微笑んだ彼女の姿は今でも忘れられず、鮮明に覚えている。 これから本格的に使えるようになるのだと心を引き締めて屋敷の門をくぐり抜けた時だった。 「何をしてるんだ?」 不意に聞こえてきた声に振り返った。門のすぐ傍に立っていたのは細見の男。スザクよりも幾分か年が上だろう。ヴィ家の当主と同じ艶やかな黒髪と宝石と見紛うほどの澄んだアメジストの瞳がじっとこちらを見据えていた。まるですべてを見透かそうとするようなその瞳に苛立った。 「何でしょうか」 此処にいると言うことは、ヴィ家の関係者であることは間違いない。父に迷惑をかけるわけにはいかないと苛立ちを押し殺し問いかける。返ってきたのは笑い声だった。くすくすと耳を打つ声がやけに癇に障った。 「お前がゲンブ殿の言っていた奴だな」 父を知っているのかと怪訝な顔のまま問えば、返ってきたのは微笑みと一つの名――。 「俺はルルーシュ。貴殿の父君には母が大変世話になっている」 柔らかな日差しのような笑み。ただただ呆然とするしかなかった。 それから頻繁にヴィ家に通うようになったが、相変わらず彼のことが苦手で当たり障りのない挨拶を交わすだけだった。ルルーシュは母マリアンヌと外見だけでなく快活なところもよく似ていた。 一見冷静沈着に見えるが、行動力に関しては彼女を遥かに上回っていた。興味を持ったらすぐに実行する。それが彼の性格だった。 街の洗濯場で庶民とともに働いていた姿を見た時には驚いたものだった。曰く「どうやって汚れた衣服が綺麗になるのか知りたかった」と笑いながら話していた彼は本当に楽しそうだった。貴族だからと言って力を誇示しひけらかすことも見下すこともなく街の人たちと肩を組み、笑い合う姿は自分よりも五つも年上だとは思えない。少年のようだった。 彼に対する振る舞いはヴィ家に仕える人間として無礼極まりないことだと自覚はしていたし、いずれそれ相応の罰を与えられるものとばかり思っていたが、それは半年すぎても訪れなかった。けれど、そんな曖昧な気持ちが一変したのはある雨の日だった。 その日は冷たい雨が降りしきる肌寒い日だった。 駆け足でいつもと同じように門をくぐり抜けた時、ふと視線を向けた庭に佇む人影に気づいた。 ずぶ濡れの姿に慌ててかけより、屋敷に入るよう促しても彼は動かなかった。俯く彼の漆黒の髪から雫がいくつも落ちてゆく。 「ルルーシュ様」と呼んだ瞬間、息を飲んだ。 ようやく見えたアメジストは濡れていたのだ。声も出さず、ただ静かに涙を流す。 目が離せなかった。 その日、ずっと療養していた妹が亡くなったのだと聞かされたのはマリアンヌと共に出かけていた父が屋敷に帰って来た後だった。 next |