お菓子聖日

□歯車、始動
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しとしと…
ハラハラと――――
灰色の空から落とされる白い無垢な光を放つ氷の結晶を
受け入れるかのように手をかざし、亜麻色の瞳をいっぱいに開かせ天を見つめるファーの付いたニットジャケットを着る少年
彼以外誰も居ない白銀の世界で猫っ毛のようにフワフワした茶色の髪を気にしながらも、手の中に落ちて来た雪を握りしめる
「…―もう直ぐなんだね、僕の役目を役割を宿命を運命を果たす日まで…頑張らなくちゃ。」


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真夏のような暑い日々を終えるかのように段々と聞こえて来なくなる蝉の声と反するように、肌寒さをまとい訪れる秋の風
そろそろ夏休み気分から新学期へと切り替え始める空気の中…
少年はざわめくクラスメートに我関せずのようで何時も通り、教室の廊下側隅の机で本を開こうとした時――前に座った、鞠亜によって遮られた
「玲兎、聞いた―…って知る訳ないか。」
「ふぇ?どうしたの、鞠亜。」
首を傾げ話の筋が分からない玲兎は目の前で大きな溜め息をつく鞠亜に戸惑う
彼女は彼女で玲兎の鈍さに頭を抱えていたのだ
「聞いてないの?私達のクラスに転校生が来るって」




鞠亜の言葉を聞き、ちょとんとしたのち首を振り知らないと否定する玲兎の頭を彼が読んでいた雑誌を丸め叩く
痛い…と叩かれた部分を抑える玲兎はすこし涙目になりつつも彼女の話に耳を傾ける
「ホラ、もう二学期も始まって少し経ったこの時期に転校生が来るのよ。おかしいとは思わない?」
「別に変な話じゃないよ、親御さんの都合でこの時期にやって来る事もあるじゃない。それに僕は『聖なる日』に関わらないなら良いんだし…」
そう言うと鞠亜に取られた雑誌を返して貰い、ページをめくり始めた玲兎
そうだったーっと鞠亜は諦めの表情を露わにする
「玲兎は『人』に関する話題はどうでも良かったんだった事、すっかり忘れてた」
つまらなさそうに玲兎が見ている雑誌に目をやれば教室の扉が開く音が聞こえ、担任が入って来る
何時もならば1人で入って来るはずなのだが、今日に限っては2人であるが為に教室は火が点火されたのようにざわめき始めた
「静かにしなさい!その様子だともう知っているだろうが、こんなクラスに転校生が来ました。」
チョークを黒板に立て、達筆に軽快な音で転校生の名前を書いていく担任
ふわりと舞ったチョークの粉を落とし、紹介に入る
「今日から共に勉学を学ぶ事になった、『一ノ谷院寿』君だ。まだこの街に来たばかりだから色々と助けてやれよ。
席は―…芳月の隣が空いているから其処を使ってくれ」
少し色素が落ちた、金色にも近い茶髪をなびかせ静かに席に座る一ノ谷院。
今まで空席だった隣にやっと持ち主と言える人物がやって来た事ゆえ、挨拶をせねばと話掛ける
「えっと…僕、芳月玲兎。よろしくね、一ノ谷院君」
「………―よろしく」
ふわりと笑いかける玲兎に静かに会釈をしてくれた一ノ谷院に満足したのか、前を向く
はやり『聖なる日』に関係なくとも隣に人が居るという事実は嬉しくなるようだ

だらだらと教室で行われる授業に変化をもたらすかのように、体育の準備で教室は男子のみでざわめいている
玲兎はいそいそと着替え、体育館シューズを抱え1人教室から出て行く
「おーい、一ノ谷院。男は外で野球だとよ。」
「グランドまで案内するよ」
体操着に着替え終わったクラスメートの浅井と高城が気さくに話し掛けて来た
その言葉に疑問を感じ話し掛けて来たクラスメートに質問をする一ノ谷院
「芳月は体育館シューズを持って行ったが…良いのか?」
「あぁ、玲兎の奴は仕方ねぇよ。」
「一ノ谷院は転校したばっかりだから知らねえから話すよ。
玲兎は重度の熱中症持ちらしくてさ、少しでも外で運動しただけでメッチャ汗かいて唇が紫色に変わるわ顔は青白くなるんだよ。」
誰から見ても体調が悪いとわかる程、顔色が真っ青になり尋常ではないほどの汗をかきながらも体育をしたいっと訴えた事があるらしく…他のクラスでも有名な話だと語る浅井
「後から分かった事なんだけど実は玲兎君、体育は勿論激しい運動はしちゃ駄目ってドクターストップが掛かってる程重症なんだって。」
流石に先生方も止めに入ったが玲兎の懸命な頼みで『体育は体育館のみとし、激しい運動はしない。こまめな水分補給を取る事』を条件に体育をさせて貰っているのようだ
一ノ谷院が誰も不満を言う者は居ないのかと、聞けば苦笑して否定の意を表す2人
「持病だから仕方ないってのと玲兎の人間性が凄いつーのが、有るな。」
「そうだね。言葉に言い表せない凄さが玲兎君にあるから、一緒に過ごせば一ノ谷院君もわかるよ。」
疑問は更に疑問を呼び一ノ谷院の頭を悩ませた
知れば知るほど、隣に座る隣人の事が分からなくなって来る…胸
の中に渦巻く初めて感じる感情に戸惑い思考を巡らせるのみだった



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