薄桜鬼夢小説
□カシャッ☆彼女の○○通販!?
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昼休みも半ばを過ぎた頃。私立薄桜学園の大きな体育館の入り口に、二人の男子生徒がへばりついていた。一人は二年、沖田総司である。彼は僅かに開いたその重い扉の向こうを黙って覗き込んでいる。そして彼の後ろに立って落ち着きなく辺りを見回しているもう一人は、同じく二年の斎藤一だった。
「…この様な愚行、やはり賛同できない」
そう言って斎藤は総司の背中をいささか恨めしそうに見つめながら、胸元のポケットに手を伸ばす。彼の手には通称「デスノート」と呼ばれる、風紀委員の閻魔帳が握られていた。
「何言ってるのさ」
総司は体勢を崩さないまま呟いた。
「ここまで来たからには一くんも撮っとけばいいのに」
ほら、今がチャンスだよ? と総司が悪魔の如く囁く。
「だが、しかし――」
「ま、少し心でも落ち着けたら? いつか言おうと思ってたんだけど…一くん最近、顔が鬼みたいになってきてるよ?」
怖い怖い、とクスクス笑う総司に斎藤は眉をしかめる。風紀委員として他の生徒に厳しく接するのは使命であり責務でもあるのだが…。
「おまえがそこまで言うのなら…」
コホン、と咳払いした斎藤の足がその扉に向かって動き出したその時だった。
「はい、ストップ」
斎藤の肩がびくりと跳ねた。振り返るとそこには――
「は…原田先生! い、いや、これには事情が!!」
珍しく取り乱す斎藤をよそに、涼しげな表情で腕を組む体育教師、原田左之助の姿があった。
「おまえら、もうそろそろ昼休み終わるぞ? さっさと教室に戻れよ」
「ん〜…、左之さん、もう少しだけ〜」
石のように硬く直立している斎藤とは対照的に、総司は左之助を振り返ることなくそう呟いた。彼は右手のケータイ電話をなにやら操作しながらぶつぶつと呟いている。左之助は首を傾げた。
「…総司、おまえ何やってんだ?」
「え〜…、隠し撮りだけど〜」
斎藤の顔がさっと青くなる。彼は「俺は失礼する!」と左之助に頭を下げて競歩の選手のように廊下を去って行った。こんな時にも決して廊下は走らない…流石は天下の風紀委員長だ。一方、左之助は総司の台詞になおも首を傾げていた。彼が…いや、この私立薄桜学園の全男子学生が隠し撮りをしようとする対照は、どう考えても一人しかいない。一年の、雪村千鶴――この学園に唯一存在する、女子生徒だ。
だが、左之助がこれからこの体育館で授業を始めるのは、同じ一年でも彼女のクラスではないのだった。
「おまえ…まさかとは思うが…そっち方面の――」
「ちょっと…勘弁してよ!」
この疑惑に、総司もようやく振り返って否定した。彼はぶつぶつ文句を言いながら、ケータイを左之助に差し出す。
「これだよ、これ!」
「ん…?」
左之助は総司のケータイを受け取り、その画面を覗き込んだ。
「何で…千鶴がいる?」
そこには、この体育館にはいない筈の千鶴のジャージ姿がはっきりと映し出されていた。左之助の驚き様に満足したのか、総司はニヤリと微笑む。
「やっぱさ…ここが違うんだよねえ」
そう言って彼は自分のこめかみに長い指を指した。
「おまえ、威張ってる場合じゃねえよ。こんなモン見ちまった以上、俺の立場上ほっとける訳ないだろ?」
さっさと消せ、と左之助は総司にケータイを突き返す。しかし総司は不敵な笑みを浮かべたままだ。
「どうして消さなきゃならないのさ」
「どうしてって、おまえ…」
左之助が眉をしかめる。
「千鶴が嫌がるに決まってるだろ? 学園内でたった一人の女の子だろうが? おまえもおまえで、千鶴の事を少しでも気にかけてるんなら、そんなアホなことすんな!」
総司の頭をくしゃっと押し付け、左之助はため息を吐く。しかし総司は相変わらずけたけた笑っていた。
「やっぱり左之さんもひっかかるんだ…血は争えないってことだね」
何言ってんだ、と左之助が首を傾げると、総司は得意気に微笑んだ。