無双夢小説
□愛故悪戯
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「凌統、さま…っ」
一週間ぶりに彼の姿を見るなり名無しさんは喉の奥から甘い声を出していた。凌統は、帰還したばかりの兵たちの向こうに頬を染めた名無しさんを確認するとふっと苦笑した。
「――以上。それじゃ解散」
彼の言葉を合図に、賊討伐を無事終えた兵たちはぞろぞろと兵舎へ歩いていく。ようやく凌統と名無しさんの間の障害物は取り除かれた。
久しぶりの対面が恥ずかしいのか、俯き加減で立ち止まっている名無しさんに向かって凌統はゆっくりと歩いていく。彼の疲労は、名無しさんに一歩近付くごとに癒されていた。
「ただいま、名無しさん」
彼女の赤く染まった頬に手を寄せて凌統は言った。
「おかえり…なさい!」
その潤んだ瞳に彼は微笑んだ。
「そんなに心配だった?」
そっと彼女を抱き寄せて凌統が問うと、名無しさんは彼の腕の中でこくりと頷いた。
「たいしたことない相手だったよ。怪我一つしてないしね。そんなことより…」
凌統は名無しさんの耳元に唇を寄せた。
「俺は…あんたの方が心配だったんだけど?」
「あっ…!!」
名無しさんの柔らかな耳朶を凌統の熱い唇で撫でると、名無しさんは身体をびくんと跳ねさせて艶めかしい声をあげた。身体の芯が溶けていきそうなほどの感覚に、彼女はこの地獄のような一週間がようやく報われるという期待を込めて彼を見上げた。
「凌統さま…わたし…もうっ…」
「そんな顔してもだーめ」
苦笑しながら凌統は名無しさんの額に口付けを落とす。
「俺まだ殿にも会ってないんだよ? 事後報告だって残ってるし」
「っ…」
彼の腕の中で身をよじっている名無しさんを見つめながら、凌統は満足げに微笑んだ。
「もう少し『それ』で我慢して?」
「も…無理…です…!」
涙ぐんで身悶える名無しさんに凌統は自分の下腹部が熱くなるのを感じた。できることなら今すぐにでも彼女を抱きたい。しかし――
「凌統っ! いちゃついてねーでさっさと来いよっ!」
戦友がそう叫ぶと、凌統はふうとため息をもらして名無しさんを離した。
「今行くっつーの! ちょっとは気を利かせろって!」
「うるせえ! 新婚だからっつって浮かれてんのはてめぇだけなんだよ! 名無しさん、そいつをあんまし甘やかすんじゃねーぞ!」
甘寧はにやりとして背中を向け歩き出す。凌統は呆れた声を出して振り返った。
「本当、ガサツな奴だな…ま、そういうことだから、行ってくる。遅くなるかもしれないから、先に寝てていいから」
「そんな…、大丈夫です、待ってます!」
断言する名無しさんに凌統はくすりと笑った。
「そんなに…欲しい?」
「違っ…!! そういう意味じゃなくて!」
顔を真っ赤にして否定する名無しさんの腕を不意に凌統が引いた。
「…じゃ、今夜も『そのまま』でいいか」
「っ…!」
二の腕を掴まれた名無しさんはいつの間にか彼に引き寄せられていた。
「…でも、名無しさんはよくても俺は無理だから。帰ったら抱くよ…今日こそは、ね」
覚悟しておいて――そう付け足して凌統は愛しい新妻に背中を向けた。
名無しさんは夫のたくましい後ろ姿に熱い視線を送りながら、崩れそうになる身体を何とか支え、ぎこちなく歩いて行った。