無双夢小説

□雪柳
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乾いた土を撫でる冷たい風に凌統は肩をすくめた。冬はあまり好きではない。身体が感じる寒さはそのまま心へも感染する。


「もうっ! 駄目だって言ってるじゃないですか!!」


その高い声に凌統が顔を上げると、くしゃみを連発する甘寧の前に一人の娘が腕を組み立ちはだかっていた。


「うるせえな、ほっとけよ」


真夏の太陽の下ならいざ知らず、袖の無い薄い上着一枚でそう豪語する甘寧に、その娘は一歩詰め寄った。


「こっちはほっとけないから言ってるんです!」


そう言って娘は小さな手を甘寧の額に伸ばした。しかめ面のまま甘寧は舌打ちしたが、その行為を拒むことはなかった。


「………やっぱり」


娘は彼より頭一つ分低い場所から彼を睨み付けた。


「熱がある」


「ねえよ」


「あるって言ってるでしょ!」


「ねえっつってんだろ!」


「あーーっ、もう!!」


彼女は足をばたつかせて辺りを見回した。不意にその視線が凌統とぶつかる。


「っ!! 凌統さま!!」


助かったと言わんばかりに彼女は凌統に手招きする。凌統は肩をすくめたまま二人に歩み寄った。


「…なに?」


事の一部始終を静観していた彼は、寒さに震えながら声を出した。


「甘寧さまを連れてくの、手伝って下さい!」


「はぁ?」


「甘寧さまはちょっと黙って…逃げないで!!」


甘寧を叱りつけながら、くるりと背中を見せ歩き出そうとする凌統を必死に止める。


「熱があるのに言うこと聞いてくれないんですよ、だから凌統さまも手伝って下さい!」


名無しさんにがっしりと腕を掴まれ、凌統は渋々振り返った。


「なんで俺が…」


「だって私じゃ甘寧さまが逃げようとするのを止められないじゃないですか」


自分の非力さを当たり前のように訴える娘に、凌統はため息を吐いた。


「こんな馬鹿、ほっとけよ」


「ああ? てめえ…今なんつった?」


名無しさんを押しのけて、甘寧が凌統ににじり寄る。凌統は気だるそうに彼を見据えた。


「馬鹿は死んでも治らないって言ってんの」


「…なんだって?」


「ちょ…ちょっと待って!!」


向かい合った二人の隙間に潜り込んだ名無しさんが彼らを引き離そうと声を上げる。


「凌統さま、挑発しないで! 甘寧さま、お願いだから言うこと聞いて!」


ね、と二人を交互に見上げる。


「名無しさん、おまえは向こうに行ってろ」


「…それは俺も賛成」


「だから…ちょっと待ってって!!」


名無しさんは思い通りにならない展開に地団駄を踏んでから凌統の腕を取り、とりあえず甘寧との距離をとった。痛いって、と苦言を呈す凌統の腕を引き、近くなった彼の耳元で息を切らして囁く。


「なんで…あんな風に言うんですか!」


「…は?」


「とぼけないで下さい!」


しらを切る凌統の腕を名無しさんは更に強く引いた。


「なんで事を悪化させるんです! 手伝ってって言っただけでしょう!?」


「…さあ、なんでだろうねえ」


彼の煮え切らない態度に、名無しさんは苛立った。


「もういいです、自分で何とかするから凌統さまはあっちに行って下さい!」


「は、呼んどいてそれかよ」


「こっちこそ『呼んどいてそれかよ』ですよ! 凌統さまなら何とかしてくれると思ったのに!」


言うだけ言って、名無しさんは彼の手を離した。


「お手数かけてすみませんでした! あ…ちょっと、待ってってば!!」


いつの間にかその場を離れていた甘寧を呼び止めながら名無しさんは駆け出した。凌統は再び寒くなった身体を震わせながら、名無しさんとは反対の方向へと歩き出した。


「あの馬鹿…さっさと医務室行けって」


騒がしい二人に背を向け、ぽつりと、そう呟いた。
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