薄桜鬼夢小説

□あなたは強いから美しい
2ページ/3ページ





十分にその果実を味わった千景は、千鶴に覆い被さったままその手を下に伸ばしていった。これには千鶴もはっとして両手をばたつかせる。そんな彼女さえも愛おしそうに見下ろした千景は、何のことなく千鶴の両手首を掴み、片手で抑えつけた。


太ももまで一気に着物がめくられて、恥ずかしさのあまり千鶴が顔を背ける。しかしそれを許さない千景は、今まで彼女に与えてきた口付けとは全く違う、獲物に食らいつくような激しい口付けを始めた。千鶴がたどたどしく舌を絡ませると、千景の目には喜びの光が浮かんだ。その間にも、彼の手は千鶴の秘部へと吸い寄せられている。下着の奥へと手を滑らせると、彼の指の動きはぴたりと止まった。


「…十分濡れているぞ?」


「いやっ、そこはだめぇっ!!」


「そこ、とは――この事か?」


初めての快感に充血して固くなっていたしこりを撫で上げると、千鶴は再び妖艶な声をあげて身悶え始めた。彼の指は休むことなく千鶴のしこりをつまみ上げる。誰にも触れられたことのない彼女の敏感な部分を覆っている包皮を濡れた指で軽く扱き始めると、とうとう千鶴は嬌声を抑えきれずに涙を流しながら全身を震えさせた。


彼の動きに合わせるかのようにびくんと跳ねる千鶴の艶顔を千景はじっくりと鑑賞しながら、左肘で体を支え、右手で彼女を翻弄する。甘く剥かれ続けてとうとう姿を現した彼女の隠核を一撫ですると、今まで与えられたことのない強烈なその感覚に千鶴は無意識のうちに腰を浮かせて続きを強請っていた。


「っ…? はあ、はあっ……」


その時、千景は不意に指の動きを止めた。千鶴は快感の名残に息を荒くさせながらも、隣で肘を立てた腕を枕にしながら儚げな笑みを湛えている夫を赤く潤んだ兎のような瞳でちらりと見上げる。


「…今日はこれで終いだ」


「えっ…」


千景の台詞に千鶴の表情が強張る。今の今まで聞き入れてもらえなかった自分の意志が通されるのだ。喜んでもいいはずの彼女の心はなぜか沈んでいた。


「おまえの身体に負担をかけさせるつもりはなかった」


そう言って千景は、自分の着物で拭った右手を汗と涙で濡れている彼女の顔へと伸ばした。額に張り付いた髪を優しく解かし、涙の跡をたどりながら熱い頬を撫でる。


「昨日の言葉は忘れてやる。おまえの『心の準備』とやらを気長に待つことに――」


「風間さんっ…!」


身体を起こそうとする千景を千鶴は咄嗟に止めていた。彼はいつもより少しだけ目を見開いて自分の胸元に顔をうずめる妻を凝視すると、たどたどしい彼女の声が耳に届いた。


「…鬼は…約束を違えたりしません」


「………」


「だから、続きを…してください」


「………」


千鶴の紡ぐ言葉を黙って聞いていた千景はそっと彼女に腕を回す。


「俺が欲しいのはそんな『約束』ではない」


「……でも、あの――」


顔をあげて口ごもる千鶴に、皮肉屋な彼は真剣な表情で囁いた。


「俺は確かに欲しいものを欲しいままに手に入れてきたが…それはこの手に掴めるものだけだ」


射抜くほど強い視線から千鶴は目を背けられない。


「今、俺が欲しいのはおまえの身体ではない」


「………」


こういった場面に疎い千鶴にも、彼の言葉の意味は伝わっていた。それと同時に先の自分の言葉の選択肢がおおいに間違っていたことにも気付いた。気位の高い彼に「約束だから」と身体を差し出しても…誤解を与えるだけだ。


私が伝えたいこと――千鶴は恥ずかしさと戦いながら、婚礼を迎えてから半月、初めて口にする秘められた想いを告げた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ