薄桜鬼夢小説

□カシャッ☆彼女の○○通販!?
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「これ、兄の方だよ?」


「兄…?」


「そ。答えは、南雲薫」


左之助は総司にまんまとしてやられた、と額を押さえる。学園唯一の女子生徒、雪村千鶴には、南雲薫という少し訳有りな双子の兄が存在するのだ。


体育の授業ではジャージ着用で、ジャージには男女の区別が無い。背丈も体格も、もちろん顔も瓜二つな千鶴と薫を見分けるのには、着ている制服の違いか、髪の長さを比べるくらいしかないだろう。しかし今、この体育館の中でジャージを着ている薫は、本人曰わく伸びかけた鬱陶しい髪を後ろで束ねていた。まるで、千鶴のように。


「だからこれは消さなくていいよね?」


ケータイをひらひらとさせてそう確認を取る総司に、左之助も思わず苦笑した。


「おまえの悪知恵にはある意味頭が下がるな…」


けどよ、と左之助が総司に問いかける。


「おまえそれ…何に使うんだ?」


総司はケータイをぱたんと閉じて、ポケットにしまい込んだ。


「ん〜…。慈善活動?」


「は?」


困惑する左之助に今度は総司が苦笑する。


「あのさ…左之さんにはわかんないかもしれないけど」


そう前置きして彼は続けた。


「千鶴ちゃんと話したくても話せない、そんなヤツがこの学園にどれくらいいると思う? いや…逆にさ、一年から三年の何百人の男子生徒の中で、千鶴ちゃんとふつーに話せるのって、何人だと思う?」


左之助はうーんと腕を組む。担任を受け持っている訳ではないが、学園唯一の女子生徒に関してはどの教師も特に気を配っていた。


「まず、おまえだろ?」


うんうんと総司は頷く。


「んで、千鶴とは幼なじみだって言う平助だろ?」


じゃあ他には? と総司が言う。


「あとは、風紀委員で毎朝校門で顔を合わせてるだろう斎藤と、面倒見のいい保健委員の山崎。生徒会の3バカトリオは勝手に話しかけるだろうし、あとは…それこそ兄貴の南雲薫くらいじゃねえのか?」


「その通り。さすが左之さん」


総司が指を折る。


「全校生徒の中で、たったこれだけしかいないんだよ。ってことは、裏を返せば、その他の奴らはどんなことでもいいから千鶴ちゃんを知りたいし近付きたいって思ってるってこと」


千鶴はこの学園のいわばアイドルだ。本人にその意志がないのは知っている。だが、唯一の女子生徒というだけで、その地位に祭り上げられてしまった。


しかし彼女は幼なじみの藤堂平助以外のクラスメートでさえあまり口を聞かない。根が暗いとか、そういう問題ではなく、学園のアイドルに対するギラギラした視線に既に圧倒されてしまっているのだ。必要以上に自分を持ち上げようとする相手の雰囲気には特に敏感になり、今の彼女がいわゆる「普通」に話せるのは、小さな頃からの仲である平助と、そして彼が昔から通っていた剣道の道場仲間である総司、斎藤辺りまでだ。


保健室は、時たま暴走する男子生徒から千鶴を守る隠れ蓑になっていて、そこに出入りすることの多い山崎は千鶴の味方だったし、ある意味では彼女を誰よりも特別扱いする生徒会長の風間千景も、本人の性格上、どちらかと言えば盛りのついた野郎共から彼女を守る立場にあった。千景と連んでいる不知火と天霧も、それは同じだ。


「でも、僕らと怖〜い先生達に睨まれて、千鶴ちゃんには迂闊に手を出せない」


みんな可哀想だよね、と、心にも無いことを言う総司に左之助の背筋が一瞬冷たくなる。千鶴が一人でいる時を狙って執拗につきまとい、とうとう彼女を泣かせた男子生徒を血祭りに上げたのは、どこのどいつだ?


「だから、そんな可哀想な人達のために、この写メは有効活用するんだよ」


「有効って…」


「千鶴ちゃんの本当の写メなんて誰にも見せる気無いし、かと言って奴らをほっといたら、何が何でもそれをゲットしようとして千鶴ちゃんを困らせる。だったら、こっちから配ってやればいいんだよ。千鶴ちゃん(の兄)の隠し撮り風な写メをさ」


激安で、と小声で付け加えた総司に左之助は力無く首を振る。しかし彼は即座に天秤にかけていた。千鶴に群がる生徒達が、総司や他の面々に次々とボコボコにされるだろう荒れ狂う近い未来と、南雲薫の写メが流出するだけで少しは騒ぎが収まるだろう穏やかな現実を。


「…バレねえようにやれよ?」


「了解〜」


総司は鼻歌混じりに廊下を去って行った。


その日からしばらくの間、千鶴は随分と平和に暮らすことができたのだった。













*END*
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