終焉之唄
□邪乱無導
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「随分と、利己的な正義じゃのう」
窓から目をそらさぬまま、羽夜が口を開く。
「幼子であろうと……いや、まだ幼いからこそ、一度覚えた死への恐怖は消えぬものよ。死を恐れ生にすがりつく愚かな者程扱いやすいものはない。わらわが教えてやらねばならぬ。飼い犬としての生き方を」
羽夜は振り向いて、笑った。窓枠に寄りかかり、夕日が黒衣を赤く染める。
「わらわはこの世の果てを見たい」
聖紫が何も言わぬのを確認し、更に羽夜は続けた。
「わらわはお主が羨ましいぞ。尽きることのない命、世界の終わりを見ることのできる唯一の存在……お主がな」
静まり返った室内、ひび割れたステンドグラスから差し込む光が映し出す虹色は、鈍く曇った混沌の色。
僅かに聖紫が見せた悲哀に満ちた表情はその光に隠されて羽夜には届いていなかった。
「羽夜さま!」
再び窓の外から聞こえた声は、先程の少女のものだった。腕いっぱいに小さな花を抱えて羽夜の元へと走り寄る。
「ふふ、己が欲望の為に儚き命を摘みとるか」
差し出された花束を見つめ羽夜は呟いた。長時間根本が空気に触れていた為か、花弁は生気を抜き取られたかのように変色しうなだれている。
「あ……しおれちゃった……」
それに気付いた少女は申し訳なさそうに眉を寄せて腕の中を見つめた。
「……それで良い」
羽夜は少女の頭に手を沿え、今にも泣き出しそうに震えている頬へと滑らせた。