終焉之唄
□邪乱無導
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「お主は素質があるのやもしれぬな」
「……?」
不思議そうな瞳で見上げる少女から手を離し、もう一度聖紫へと向き直った。
「刻は来た」
聖紫は表情ひとつ変えずに次の言葉を待つ。すっかり日も落ち、光の届きにくい室内は既に闇に包まれていた。
「藍紗、他の子ども達を呼んでおいで」
背を向けたまま、羽夜は窓越しに少女へ告げた。訳も分からぬまま、それでも言う通りにしようと頷いて藍紗はその場を去る。しおれた花は地面に置き去りにされ、風に吹かれて散らばった。
「……残念だ。お前さんからあの子達を救う術はないということか」
一歩、また一歩と近付いて、聖紫は羽夜の隣に肩を並べる。窓枠に手をついて、走り去っていった少女、藍紗の背中を眺めていた。
「……殺し合え。生き残った者のみわらわの飼い犬となる資格を与えよう」
誰に言うでもなく、羽夜は闇を見つめたまま呟いた。少女に向けられていた優しい笑みすら消え、影をおびた口元に浮かぶのは漆黒の狂意。
「生きることも、死ぬこともできなかった出来損ないくらいはくれてやってもよいぞ」
「ふん……話にならん」
窓の向こうには、十数人の少年少女達が集まってきていた。外はもう薄暗い。彼等にとって唯一の帰る場所であるこの教会が、間もなく戦場と化すだろう。例え生き残れたとしても、その先に希望はない。
「やはりお前さんとは合い入れぬようだな……」
去り際に聖紫が言い放つ。
生か死か、一体どちらの選択が彼等にとって幸せなのか。答えは見つからぬまま、無情に時は回り続ける。朽ちてなお続く歯車は、止まらない。