終焉之唄

□白交闇色
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 頭の中が掻き回されて、息をするのもやっとだった。

 俺もいつか、黒に染まるのか。




闇色








「うえ……っ!」

 鼻につく血の臭いが充満していた。纏わりつく、手に、顔に、体に。
 抑えきれない眩暈と吐気が膝を床につけさせた。

「あんたら……なんでこんなの平気なんだよ!?」

 震える拳を握り締め鷹希は叫んだ。
 目の前に広がる光景が現実であると信じることができなかった。

「当前だよ、これが仕事なんだから」

 立ち上がることのできない様子の鷹希に近付き、愁華は見下すように言った。
 背後には壁に貼り付けられた女性の遺体。頭を逆さにして両手を広げ逆十字を型どる。ナイフで串刺しにされた身体のあちこちから、おびただしい量の血を垂れ流している。右手に添えられた薔薇の造花だけが悲しく咲き誇っていた。

「愁華……お前はやりすぎだ」

 二人の間に割って入った藍紗が吐き捨てた。

「……僕らの仕事がどういうものか、新米の彼に理解させてあげたんだ。僕なりの優しさだよ」
「ふざけんな……っ、俺は……」
「殺しなんてしたくない?」

 藍紗を退け、目を背けた鷹希の頭を掴み自分の方を向かせる。

「逃げるならここで殺すよ。君の教育係の一人として責任をもって処分する。選択肢は二つしかない。殺すか、殺されるか」
「……っ!!」
「僕らに逃げ場はないんだ。ねえ、藍紗」

 返り血で染まった髪を掻き上げ、藍紗に同意を求めた。藍紗は何も言わず、ただ俯いているだけだった。

「分かったら早く自分の仕事を片付けるんだね。殺し屋のサポートが君の仕事だろう、掃除屋くん。僕は疲れたから先に帰らせてもらう。藍紗、後は頼んだよ」

 そう言い残し、闇へと溶ける。

「……大丈夫か?」
「大丈夫な訳あるか……!」

 藍紗の腕を振り払い、鷹希はよろけながらも立ち上がった。
 そして愁華が残していったナイフを一本一本回収していく。支えを失った遺体は地に落ちた。苦痛に歪んだ女の顔を見ぬように、ただ無我夢中で体を動かしていた。




 夢を見た。自分が人を、殺す夢――
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