バッドエンド

□―*1*―
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 森の中を歩く青年が一人。名をミストという。山歩きには似つかわしくない動きにくそうな黒い服に身を包み、道無き道を黙々と歩き続けていた。

 どこか行くべき場所があるわけではない。何か目的があるわけではない。誰かに追われているわけでもない。気の向くままに放浪の旅を続ける。生憎、帰る所などは持ち合わせていないのだから。今はただこの薄暗い湿った森から抜け出したいという一心で歩いていた。

 蔦状の草が足に纏わりつき、鬱蒼とした木々が行く手を阻む。無造作に纏めた長い藤色の髪が木の枝に絡み思わず足を止めた。

 迂闊だった。強い陽射しを嫌い日陰を求めて軽く足を踏み入れただけのはずが、随分と奥まで迷い込んでしまったようだ。深い緑に覆われあまり太陽の光が届かないことが不幸中の幸いか。ひやりとした冷たい風が頬をなでるように通り過ぎていった。

 荒々しい手つきで絡んだ髪を解き前に進もうとする。その瞬間、風を切るような音を立てて何かがこちらに飛んできた。
 茂みの向こうから現れたそれは一本の短剣。ミストの足元に突き刺さり、まだ僅かに振動していた。

 取り乱すことなく、飛んで来た方を睨みながら不機嫌そうに一言だけ呟く。

「……誰だ」







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