終焉之唄
□邪乱無導
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「羽夜さま見て、綺麗なお花を見つけたの。羽夜さまにあげる!」
その場の空気にそぐわない明るい声が室内に響く。ひび割れた窓ガラス越しに、薄紫色をした小さな花を一輪持った少女が姿を現した。
「ありがとう……外で遊んでおいで」
「はいっ」
少女から花を受け取った羽夜は微笑みながら言った。先程聖紫に向けたものとは違う柔らかな笑みだった。
「随分と人気者だな。可哀想に、あの少女はまだ己の運命を知らぬのか」
皮肉を籠めて言う聖紫に向けた表情は、既に喜びとも悲しみとも怒りともとれる不思議な笑みに戻っていた。
「……もう一度頼もう。あの娘で良い。私に譲ってはくれないか」
「あれは後にわらわの飼い犬となる種じゃ。これから先、殺し屋として、わらわの駒として働いてもらわねば困る。そう簡単には譲れる訳がなかろう」
受け取った花から手を離すと、落ちた衝撃で薄紫の花弁が散った。刹那に舞い上がったそれは重力に逆らえず、ゆっくりと、しかし確実に地へと吸い込まれていく。
「愚かな。お前さんはまだ幼い命をもてあそんでいるのか」
「お主に偉そうな口をきく権利はあるまい」
「私は貴様とは違う」
僅かに語尾を強め、聖紫は羽夜を睨みつけた。
「私は救ってやる。貴様のような狂人から救ってやるのだ……死という形でな」
散っていった花に視線を落とし、自分にいい聞かせるように呟いた。羽夜はまだ、笑みを張り付けたまま聖紫を見つめている。