バッドエンド

□―*1*―
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「暇だなー……」

 静かな森の中に大きな欠伸が響き渡る。目の端に溜まった涙を拭いながら、青年は近くの大木に寄りかかった。木の葉が数枚、黒髪に舞い落ちうるさそうに払った。身体を動かす度に簡易な作りの皮鎧が擦れる。その小さな音さえ聞こえてくるような静けさの中、もう一度欠伸をした。

 青年、ヴィックスは大きく空を仰ぎ、鬱蒼とした木々の隙間から覗く僅かな光を求めるように大きく腕を伸ばした。

「早く来ないですかねえ……」

 同じように木に寄りかかりながら隣に座っていた青年、アレックスも呟く。青年と呼ぶにはあまりに幼い。少年の色を未だ残した彼もまた、抑えきれない欠伸と戦っていた。

 彼らは人数こそ少ないがヴィックスを中心とした盗賊団で、今日どこぞの王族御一行がここを通る、という情報を頼りに待ち伏せしている最中だった。
 この森は二つの国の境にあり、様々な国を渡り歩いている商人や旅人、または貴族や王族などの通り道となる。

「頭、本当に確かな情報なんスか?」
「まさかガセじゃないでしょうね」

 木の枝や葉を千切りながら退屈そうに歩き回っていたシオンとレオン、同じ顔をした双子の青年達が訝しそうな顔でヴィックスを見た。夕焼けのように明るい橙色の髪も、猫のようにつり上がったくすんだ灰色の瞳も、何からなにまで同じだ。仲間達でさえ間違えてしまいそうな彼らの見分け方は泣き黒子の有無。

「また無駄足っすか〜?」
「うーん……まあ、酒場にいた胡散臭い連中の話だったしなあ」

 ヴィックスは視界の隅で右頬の黒子が在ることを確認し、今情けない声で縋りついてきたのはシオンだと判断した。

「頭、頭! 来ましたよ、獲物っスよ!!」

 皆諦め気味に溜め息をついていると、偵察に行っていたらしい、ひょろりと縦に長い体型をした青年、ハルキが木の上から姿を現した。息を切らし、ヴィックス達を見下ろしながら叫んだ。

「足止めしときましたから早く来てください!」

 呼吸を整えると、すぐに背を向け道案内をするように今来た方向へ枝から枝へと飛び移ってく。仲間達皆嬉しそうに顔を見合わせると、器用に進んでいくハルキの緑に映える金髪を追いかけた。






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