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□禁じられた遊び
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そうして愛憎相半ばする複雑な思いを抱えたまま、流されるように逢瀬を重ねた結果が今のわたし。
いつかこんなふうに破綻することはわかっていた。だから、後悔したりだれかを怨んだり、そんな感情は湧いてこない。
つかのま、自らの内に沈んだわたしを柘植くんは黙って見ている。
彼はなにもかも、すべてを知っているのだろう。わたしの境遇や、彬さんとの許されない関係も。
それでも、わたしに向けられる眼差しに軽蔑や忌避の色はない。以前と変わらない態度で接してくれる。
はじめてわたしにやさしい言葉をくれたひと。恐らく彼にとってはなにげない振る舞いだったのだろうけれど、あの言葉にどれほど救われたことか。どんなにお礼をいっても足りない。
「ありがとう」
それがわたしの最後の言葉だった。
柘植くんがなにかをいおうとしたようだけど、その言葉はわたしには届かない。
わたしの意識は目に見えない塵のように緩やかに拡散して、空気に混ざり、風に運ばれて木に、花に、土に舞い降り、そして消えてゆく。
ひとひらの雪のようにはらはらと舞い落ちていきながら、最後のかけらでわたしは願う。
願わくば、あのひとのもとに届くように。
−終−
→あとがき+α
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