斎姫鬼譚

□学校へいこう2
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なんでこんなことに。
朝からサクヤは憂鬱だった。
だが、そんなサクヤにはおかまいなしに、憂鬱の原因であるシノブは上機嫌で隣を歩いている。


昨日、あのあと、サクヤとツバサは珍しくいい合いになった。
サクヤにしてみれば、なにも好き好んでこの男を部屋に招いたわけではない。
ただ、彼に対しては負い目を感じているため、「少しでもサクヤの傍にいたい」という申し出を無下に断れなかっただけだ。
それなのに。
ツバサはひどく機嫌が悪かった。
ああいう場合、いつもは結局ツバサが諦めて折れてくるのに、今回は仏頂面のままぴしゃりと戸を立てて出て行ってしまった。
おまけに今朝起きて食卓につくと、ツバサはひとりですでに出かけたあとで、シノブが、まるで散歩に連れて行かれるのを今か今かと待つ犬のように、無駄にキラキラとした目でサクヤを待ちかまえていたのだった。
頼みの綱の祖母は、彼の話を聞くと、諦めさせるどころか


「それじゃ、学校に連絡しとこうかね」


と、ありえない素早さで電話をかけて、簡単に学校側の了承を得てしまった。
こうなるともう、サクヤに拒否権はない。
サクヤは憂鬱だった。


「あれが学校というものか。なにやら大きな箱のようだな」


隣で呑気にそんなことをいう男を、サクヤは恨めしく思いながらちらりと見遣る。
彼は家ではいつも祖母と同じく和服姿だが、今日は珍しく洋装だった。
素人目にも仕立ての良さが窺える細身のスーツ。装飾のないシンプルなデザインだが、着ている本人の素材がいいので、恐ろしく見映えがいい。
ファッション雑誌から抜け出してきたモデルみたいだ。
ものすごく目の保養になるのに、サクヤの心は晴れない。


「サクヤ、元気がないな。ツバサのことを気にしているのか」


それもあるけど、いちばんの原因はあんただよ、といえない自分が悲しい。
ぐったりとうなだれていると、ふわり、と頭を撫でられる。驚いて顔をあげると、シノブが微笑を浮かべてサクヤを見ていた。


「心配いらない。ツバサは結局サクヤには逆らえない」


「え?」


聞き返したサクヤを無視して、彼は前方を指し示す。


「サクヤ、あの者たちはなにをしているんだ」


つられてそちらに視線を向けてサクヤはぎょっとする。
校門前には校長をはじめとして教師たちがずらっと並んで立っている。その周辺には、登校した生徒たちが、いったいなにごとかと興味津々の様子で集まっている。
イヤな予感がした。
果たして、教師のひとりがこちらを見て、慌てたように校長に声をかける。
校長が駆け寄って来た。


「い、斎くん、こちらの方はもしや」


校長と差し向かいで言葉を交わす機会なんて滅多にないサクヤは、呆気に取られてその場に立ち尽くす。
こちらの方、といわれた男は、さして驚いたふうもなく、にこやかに挨拶をした。


「突然の訪問で申し訳ない。どうしても、彼女が通う学校というものが見たくなったので」


初対面で名前を名乗らないだけでなく、かなりの上から目線口調だったが、校長は気にした様子もなく、先に立って彼を学校へとうながした。


サクヤはぽかんとする。
いったいどうなってるんだ?





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