BL/ML

□レゾンデートル
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遠くで雷鳴が轟き、叩きつけるような激しい雨が降り出した。
それを意識したのは一瞬で、すぐに僕は身体に刻み込まれる苦痛と快楽に引き戻された。


「んっ、あっ、あっ、やっ」


僕のなかに激しく突き立てられる高槻の欲望は硬く張り詰めて限界が近いことを伝えてくる。背後から僕の腰を掴み、がつがつと打ち付けてくる動きにはまったく容赦がない。
高槻の手によって快楽を施され、その掌に白濁を吐き出したばかりだった。気怠い余韻は律動に揺さぶられて霧散していく。
僕はベッドの上にうつぶせに組み伏せられ、膝をついて腰だけを高く上げた体勢を強いられている。シーツを握りしめた両手首はきつく縛られて。腕だけじゃない。目隠しをされて、なにも見えない。


「はっ、あ……シュウ……っ」


がくがくと揺さぶられて意識が飛びかける。低く呻くような微かな声が聞こえた次の瞬間、身体の奥に熱い欲望が叩きつけられた。


「――――っ」


体重を支えていた肘から力が抜けて、顔面ごとシーツに突っ伏す。
背中に覆いかぶさってきた高槻が僕の肩に噛みついた。


「い……っ」


甘噛みなんかじゃない。本気で歯を立てられて痛みのあまり悲鳴が洩れる。シーツに顔を押しつけて歯を食いしばり、なんとか声を呑み込む。
高槻のなかでなにかが暴れ回る気配がする。びりびりと空気を震わせる、殺気にも似た波動に全身が総毛立つ。
このまま食い殺されてしまいそうな恐怖に駆られる。自分が狩られる側の存在だということを、まざまざと思い知らされる。
それでも、僕は痛みをこらえてゆっくりと身体から力を抜いた。高槻は噛みついたまま、僕の口に指を突っ込んでくる。


「っんぐ……ぅ」


苦い粘液が舌に擦りつけられる。
それがさっき吐き出した自分の体液だと理解して思わずえづきそうになる。なんとか我慢して、おとなしく口を開いた。
高槻に逆らうのが怖い、というのもある。だけどそれと同じくらい、もしかするとそれ以上に、高槻の衝動を受け止めたいと思った。


「ぅ……く……んっ……、は」


高槻の指に舌を絡めて自分の欲望を舐めとる。そうするあいだも高槻は指を動かして僕の口腔を掻き回す。飲み込みそびれた唾液があふれて顎を伝う。
しばらくして、皮膚に食い込ませていた歯を抜くと、高槻は僕のうなじに鼻先を擦りつけた。まるで動物が甘えるようなその仕草に、僕は一瞬痛みを忘れた。
高槻は無言で僕から身体を離す。
ようやく目隠しを外されて瞬きを繰り返した。いつのまにか僕は泣いていたらしい。視界を覆っていたものがなくなり、受け皿をうしなった涙がシーツにあふれて染みをつくる。
次に、手首の戒めを解かれる。
縛られることに慣れつつある腕は、もうほとんど感覚がない。


肩で息をしながら、ぐったりとシーツに沈み込む。薄暗い室内に閃光が走り、間を置かず、空を裂くような雷鳴が轟く。窓ガラスが小刻みに振動する。凄まじい衝撃音にびくっと身を竦めたとたん、足のあいだからぬるりとしたものがあふれ出した。体内に放出された高槻のものがとろとろと肌を伝い落ちる。


「あ……」


その感触にぞくりと身震いをして顔をあげる。すっかり着衣を整えて、無表情で僕を見下ろす高槻と目があった。唇がなにかをいいかけて、でも結局は無言のまま背を向けて部屋を出ていく。


「――――、」


閉じられたドアを見つめて、僕は口にしようとした言葉を呑み込む。いえなかった言葉の代わりに涙があふれ出す。


背中が、遠い。


僕はそのまま意識を手放した。





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