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□SとM
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「おまえ、学校では優等生なんだろう? そのおまえが、こんなふうに這いつくばって床を舐めて喜ぶ変態だと知ったら、みんなさぞかし驚くだろうな」
 くっと、喉の奥で笑いながら彼がいう。その言葉にかっと顔が熱くなるが、同時に身体がひくりと疼く。
「手が汚れた」
 そういわれて身体を起こすと、ケーキを掴んでべとべとになった彼の手があった。ぼくはすぐにそれを舐める。指をくわえたとたん、それで咥内を掻き回される。
「ん……っう……、ふ」
「いやらしい顔をして。そんなにおれの指がうまいか」
「……っん」
「聞こえん」
「お、いし、です」
「この変態が」
「…………っ」
「なんだ、おまえ、興奮してるのか。ひざまずいて指を舐めて変態呼ばわりされて欲情するのかおまえは。どうしようもない奴だな」
「……っあ」
 彼の足がぼくの股間を踏みつける。腰を引きかけて、なんとかそのまま我慢する。ぐりぐりと力を込められて腰が跳ねる。
「やっ、あ……」
「おまえはほんとう、どうしようもないよ。高校生のくせに淫乱でド変態でストーカーなんかしやがって。いつからあそこで待ってた?」
「え、あ……ゆ、夕方から」
「気持ち悪いやつだな」
「――――っ」
「こんな薄い制服姿で、この寒空の下、約束もしていない人間を待ちつづけるなんて、ほんとう、気持ち悪くて馬鹿でどうしようもない」
「……?」
「親の顔が見たいよ。こんな深夜まで出歩いて、なにもいわれないのか」
「き、今日はクリスマスイブだから、と、友だちと集まって、そのまま泊まるって」
「それで許可がおりるのか」
「逆に、たまには息抜きしろっていわれるから」
「ふだんどんだけクソまじめなんだよ」
「そ、そんなんじゃ……っん!?」
 ぐいっと胸倉を掴まれ引き寄せられる。目のまえに迫るのは、冷たいくらいに整った彼の顔。
 そのまま唇を塞がれる。
 なにが起きたのかわからない。すぐに解放される。
「甘いな」
「……え?」
 キスをされたのだ、と理解したとたん、動揺して視線が定まらない。思わず唇に触れて今の感触をたしかめようとするぼくに、彼は冷ややかにいう。
「勘違いするな。おまえの口にクリームがついていて目障りだっただけだ」
「え?」
 よくわからない理由に戸惑うぼくに苛立ったように手を離すと、彼は部屋を出ていこうとする。
「待って、ど、どこに」
「風呂に入る」
「……はい」
「なにをぼんやりしている。早く来い」
「え」
「制服のまま寝るつもりか?」
「え、……え?」
「さっさとしろ。来ないなら帰れ」
「か、帰りませんっ」
「だったら早く来い。おれは気が短い。放り出すぞ」
 ぼくはあわてて立ちあがる。
 どういうことだろう。ぼくを泊めてくれるつもりなのだろうか。ほんとうに? 夢を見ているんじゃないのか。ぼく、とうとうおかしくなったんじゃないか。今日の彼は最初からやけにやさしすぎる。いつもはあんなに冷たく邪険にあしらうのに。
 こんなふうに、一緒にお風呂に入るなんて。
「震えてるな。寒いのか」
 背後から彼に抱き込まれるような体勢で湯舟に浸かっている。今まで散々、いろいろな格好をさせられたし、恥ずかしい姿を晒してきたけれど、こんなのははじめてだ。
 うつむいてふるふると首を振る。
「ちが、う。あの、なんで、こんな」
「なんだ」
「や、やさしすぎてこわい」
 ストレートにいってしまった。沈黙のあと、耳許で低くささやかれる。
「ひどくされるほうが好きか」
「…………っ」
「変態が」
 ぞくぞくする。湯のなかでぴくりと反応するぼくの身体を見て、彼がふんと笑う。
「湯を汚すなよ。粗相をしたら仕置きだからな。ああ、そんなことをしてもおまえを喜ばせるだけか」
「そ、そんな」
「躾てやる。おまえみたいなやつを野放しにしておくのは危険だ。それならいっそ飼い馴らしてやる。おまえに首輪を買ってやろう。おれが飽きるまではそばに置いてやる」
「え」
「調子に乗るなよ。飽きたら捨てるからな」
 振り向こうとしたけれど、首を掴まれて動けない。
 そばに、置いて、くれる?
 聞き間違いだろうか。でも、たしかに。首筋に唇が押しあてられる。
「せいぜいおれを楽しませてみろ。律」
「――――っ」
 はじめて彼に名前を呼ばれた。うつむいて鼻を啜るぼくに彼がささやく。
「泣くのはまだ早い。今から死ぬほど泣かせてやる。覚悟しろ」






−終−



2010.12.24


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