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□Dear my・・・
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 硬直していると、少ししていったん顔が離れた。ありえない近さに彼の目がある。そうしてすぐにまた唇を重ねられる。
 キスをされているのだ、と理解したけれど、動けない。彼の手が後頭部を掴んで固定していた。煙草の苦い味が口のなかに広がる。抵抗を許さない手とは裏腹に、触れる唇は、その仕草はとてもやさしかった。
 解放されたあと、肩を震わせながらすぐさま抗議した。
「なっ、なに、なんでっ」
 言葉にならなかったけれど。
 彼は不機嫌そうに眉をひそめると淡々と答えた。
「かわいかったから」
 かわいかったら、あんたはいきなりキスするのか!
 って、え?
 かわいかったって……、えええ!?
 ものすごい勢いで頭に血がのぼっていくのがわかる。顔が熱い。
 よく知らない男のひとからかわいいなんていわれる筋合いは、いや、理由はない。自分の造作がどんなものかは自分自身がいちばんよくわかっている。
 からかわれているに違いない。
 ひどい。はじめて、だったのに。
 ぶわっと涙があふれてきた。
「…………っ、」
 片手で子猫を抱きしめたまま、玄関先に立ち尽くして泣きじゃくる。そのあいだ、彼はただそこに立っていた。宥めることも、謝ることも、抱き寄せることもなく。
 そのことにますます腹が立って、わんわん泣いて困らせてやろうと思ったりしたけれど、結局、途中で泣き疲れてやめた。
 鼻を啜って呼吸を整えていると、すっと伸びてきた手が濡れた顔を拭う。思わずびくっと身を竦めると、彼の眉間の皺がさらに深くなる。こ、こわい。
 仏頂面でこちらを睨みながらも、涙を拭う手はまるで壊れものを扱うように慎重で。意味がわからない。なんなのこのひと。
 おまけに。
「ごめん。……好きだ」
 怒ったような声でそうささやかれて。
 頭が真っ白になった。
 だから、顔と仕草と言葉がてんでちぐはぐで、どれがほんとうなのかわからないって。ちゃんと挨拶も返せないくせに、こんなときだけあっさりと謝るなんて。
「好きだ」
 そんなことだけ、はっきりと二回もいうなんて。
 ほんとう、卑怯だ。

 *****

 ああ、いまだに思い出してもわけがわからない。どう考えても、とんでもないことをされたのに、なんで彼を好きになったんだろう。自分がわからない。
 はあ、とため息をこぼすと、それを聞き咎めた彼がつぶやく。
「ちゃんといっただろう」
 ただいま、のことだろう。
「ん、そうだね」
「なー」
 布団のなかでまるくなって眠っていた黒猫が、絶妙な間合いで相槌を打つ。
 ギシ、とベッドが軋む。
 布団を引っぺがされたかと思うと、代わりに彼が覆いかぶさってきた。
「ちょ、ちょっと待って」
 くっついて寝ていた猫が「んにゃ」とあきらかな抗議の声をあげてベッドから飛びおりる。眠りを妨げた飼い主は、猫にはおかまいなしにこちらの服を剥ぎ取っていく。
「や、やだ、待って……んむ」
 口を封じられる。暗闇のなかで施されるキスに身体から力が抜けていく。 
 おやすみなさい、をいうのはもう少しあとになりそうだと諦めた。






  ♣♣♣

タイトルはJanne Da Arcの曲より。

おやすみ、という言葉がとても優しく響く、すてきな歌です。



2011.3.18


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