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□心の行方
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「目隠しと手錠と首輪、どれがいい?」



そう男に聞かれたが、本気にしたわけではなかった。期待すれば、あとでそれが叶えられなかった時に打ちのめされる。
だから碓氷は掠れた声で短く「目隠し」とだけ答えた。



そうして。
碓氷は視界を取り戻した。






「だいぶ髪が伸びたね。明日散髪してあげよう」



泡立てたシャンプーで碓氷の髪を洗いながら男がいう。碓氷はおとなしく男に身をゆだねている。
男は清潔好きな性格らしく、碓氷を監禁してからというもの、こまめに彼の身の回りの世話を焼いている。
こうして風呂に入れるのはもちろんのこと、定期的に爪を切り、耳の掃除をして、今度は散髪までするつもりらしい。



そもそも監禁されること自体、碓氷にとっては不本意以外の何物でもないが、それでも男のかいがいしい性格のお蔭で、垢や体液まみれのまま放置されるような不快さを味わうことはなかった。



目隠しを外された碓氷は、急速に人間らしい感覚を取り戻していった。
奪われてはじめてわかる。自分がどれほど、目から得られる情報に頼って生きていたのか。そして、それを奪われるだけで呆気なく理性を手放してしまうということも。
飢(かつ)えた者が不意に与えられた水を貪るように、碓氷は目から得られる情報を貪欲に吸収していった。



目隠しは外されたものの、碓氷の首と腕は相変わらず拘束されたままだった。監禁されている部屋から出ることを許されるのは、風呂と排泄時だけだが、自分でトイレに行けるというだけでも碓氷にはありがたいことだった。
とはいえ、男は見張りのために個室のなかまでついてくるので、プライバシーがないことは以前と変わらない。だがそれでも精神的にはだいぶ違う。



碓氷が監禁されているのは十畳ほどの広さの部屋で、碓氷が繋がれているベッド以外には何もない。ベッドから離れた場所に窓があるが、雨戸が立てられているため外の様子はわからない。
部屋には空調が効いているらしく、ずっと裸のままの碓氷が過ごしやすいよう適温に保たれていた。
…そう、服。



それまでは気にならなかったが、目が見えるようになった碓氷は自分が裸でいるのが耐えられなくなった。無防備だというよりも、単純に、見たくない。自分の裸など四六時中見ていたいわけがない。
男に服を要求したが、あっさりと却下された。



「僕以外に誰もいないのだから、服を着て身体を隠す必要はないだろう?」



誰が、というより自分が見たくないのだ、というと「じゃあまた目隠しをしようか」といわれたので、碓氷はこの件に関してそれ以上口にするのはやめた。目隠しをされるのはもう二度と御免だった。





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