BL/ML

□メビウス
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高槻は僕から身体を離すと手早く身支度を整える。その気配を背後に感じながら僕は机に俯せに倒れ込んだ。


「……っ」


体内に吐き出された高槻の欲望があふれて足のあいだを伝い落ちる。気持ちが悪い。
机に顔を押しつけて震える僕に、高槻はいつもと同じ淡々とした口調で告げた。


「いつまでそうしているつもりだ。帰るぞ」


机に身をあずけて立っているのがやっとだった。それでも僕は高槻の言葉には逆らえない。身体を起こそうとして、力が入らずに体勢を崩す。
床にぶつかるより先に、素早く伸びてきた手が僕の身体を支えた。
高槻はびくっと身を強張らせた僕を抱き寄せて、ゆっくりとその場に腰をおろす。
壁に背をあずけて座ると、開いた足のあいだに僕を引き入れた。
怖くて仕方ないのに身体に力が入らなくて、僕はぐったりと高槻にもたれかかるしかない。


ひどい格好だ。
シャツは大きくはだけられ、無理やり脱がされたズボンと下着が足許で皺くちゃになっている。裸も同然だった。
そのみっともない姿で、僕を犯した高槻に身体をあずけている。下半身にはまだ生々しい感触が残っている。
帰るぞ、といったはずの高槻はそれ以上僕を急かすことはなく、黙って僕を抱いている。


とくん、とくん、と。


もたれかかった胸から高槻の鼓動が伝わってくる。
生きている人間の証。僕と同じ。
浅い呼吸を繰り返しながら僕は目を閉じた。



  *  *  *  



『お前はおれのものだ』


宣言したとおり、あの日以来高槻は僕の身体を自由に扱った。
僕は高槻を拒めない。
犯されるのは怖いけれど、彼に逆らうのはもっと怖い。
それに、僕は気付いてしまった。
僕をそういう欲望の捌け口として見る人間はあの先輩たちだけじゃない。信じられないことに、あれからも何度か危うい目に遭いそうになり、そのたびにどこからともなく高槻が現れて僕を助けてくれた。
もちろん、そのあとで僕は高槻に犯されるのだけど。


僕は弱い。情けないほどに非力だ。自分の身さえ守ることができない。
ただでさえ、ほかの男子に比べると小さくて肉体的に劣るのに、血と刃物が駄目という性癖のために殴られて血を見ただけで抵抗できなくなり、さらに刃物で脅されるともう手も足も出ない。


人間は、狩る側と狩られる側、そのどちらかしかいない、と。
高槻はそういった。
当然、高槻は狩る側の人間であり、僕は狩られる側に属するのだろう。
僕は弱い。そして狡い。
力を持たない僕は、どうすれば自分が生き残ることができるかを本能的に理解している。
そのためには、より強い、力のあるものに庇護されるしかない。
結局、僕は高槻を利用しているのだ。高槻のものになることで、ほかのものから守られている。
それなのに、犯されていると感じてしまう僕は狡い。


取引だと思えばいい。
庇護を受ける代わりに身体を差し出す。僕が持っているものは身体しかない。だからこうするしかないのだ。
一方的に奪われるだけでも仕方ないのに、結果として、僕は高槻に守られている。
恩恵を受けているのに被害者面をするなんてふてぶてしい。
そう思うのにどうして。
こんな気持ちになるのだろう。
ひどくやるせない。



  *  *  *  



高槻にもたれたまま眠ってしまったらしい。
はっとして身体を起こす。窓の向こうでは沈みかけの太陽が西の空を赤く染めている。


「ご、ごめん」


どのくらい眠っていたのだろう。
いつのまにか僕は元どおりに制服を着せられていた。高槻は壁に背中をあずけたまま無表情で僕を見ている。
すっと手が伸びてきて思わずびくっと身を退く。高槻が無造作に僕の頬を拭った。その手が濡れているのを見て、僕は自分が泣いていたことに気付く。


「泣いても無駄だ」


高槻の声に顔を上げる。


「お前がどんなに拒もうが、おれはお前を手放しはしない。諦めろ。お前はおれに殺される。それが宿命だ」





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