お宝部屋

□伝えきれない程の好き。
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伝えきれない程の好き。

鬼道はズルイ。

俺の視線も心も身体も全部、微笑み一つで思いのままに操る事が出来るんだから…。
そんな鬼道に逆らえる訳もなくて、今日も今日とて鬼道に翻弄されっぱなしだったりする。

ゴールキックの指示をまるで帝国に居た時みたいに、自信満々に口角を持ち上げた笑みを向けられたりすると堪らなくぞくぞくするし、音無と話してる時とか普段は見せない…俺にだってたまにしか見せない優しい笑顔を浮かべて、俺を簡単に妬かせる事が出来るし…。俺がどんなに好きかって知らないんじゃないかと思うんだよな。

そう考えて気怠い溜息を吐くと、鬼道の部屋のソファ代わりに座っていたベッドに後ろ手をついて合宿所の天井を見上げた。
鬼道はというと、すぐ隣りで相変わらず真面目な顔をして読書に集中している。

「鬼道…」

「何だ?」

返事はするけれど、視線は変わらず本へと向けられたままで。
本に集中しているのなら返事なんかしなくていいのに、その律儀さが鬼道らしくて思わず笑みが零れた。

「何だ?円堂…」

すると、返事はしたけれど一向に続きを話そうとしない俺に、やはり視線はそのままに聞き返してきた。

「いや、何でもない」

此方を向いていない相手に少しだけ寂しい気持ちになりながら答えると、鬼道は大して気にしていない風にそうか、と呟いて再び本へ集中していく。

安心しているのか、警戒心がないのか、それとも関心すら無いのか…。すぐに手の届く場所にいるのに、一つの事に集中してしまうとこれだから困る…。

そんな鬼道の肩に腕を回すと力強く抱き寄せた。

「…っ!!」

不意をつかれた為、体勢を整える事が出来ずにそのまま俺の胸へ倒れ込んだ相手をきつく抱き寄せる。

「な、何をしてるんだっ」

真っ赤になりながらゴーグル越しに上目で見つめる視線に、自分でもわかるぐらい綺麗な笑顔を見せて回した腕に力を込め

「ハグ」

と答えると益々赤くなり、腕の中でジタバタともがき始めた。

「いきなりこんな事するんじゃないっ」

「先に宣言してたらいいのか?」

「そういう意味じゃない、離せっ」

「ヤダ」

勢い余ってベッドに押し倒す形になりじたばたともがくけれど、俺が腕の拘束を緩める気が無いと分かると諦めたように大人しく腕の中に収まった。

「ほんとに可愛いよな、鬼道は…」

肩肘を付き大人しくなった相手の額を撫でその生え際に何度も唇を寄せてやれば、拗ねたように唇を尖らせた鬼道と視線がぶつかった。

「そんな事を言われても誤魔化されないぞ」

「ははっ。じゃあ白状するしかないか…」

そう言って相手の瞳を覆うゴーグルを額へとずらし露になる深紅に自分の姿を映して、それに捕らわれる感覚にぞくりと震えながら、相手の頬へと掌を添わせ真摯な眼差しを向けて唇を開いた。

「鬼道が俺以外の物に集中しているのが我慢出来なくなったんだ。鬼道の瞳に写すのは俺だけでいい…」

「…円堂?」

「俺だけを見てろよ、鬼道…。俺は何時だって鬼道ばっか見てるんだからさ…」

な?と小さく確認するとそのまま柔らかな唇へ自分のを重ね合わせた。

本にまで嫉妬してしまう程の独占欲。だって仕方ないだろ?鬼道が好きで好きでどうしようもないんだから…。
薄い唇が呼吸を求めて開く度に漏れる吐息すら愛しくてそれごと口付ければ、鼻にかかる甘ったるい声で返されて更に愛しい気持ちで一杯になっていく。

「…ん、えん…ど…」

「鬼道…大好きだぜ…」


告げる言葉や交わすキス一つ一つに、持てる限りの愛情を込めて大事に大事に伝えていく。際限無く溢れてくる俺の大好きが全部伝わるまで…、きっと全部伝えるからな?


するとそれを許してくれるように鬼道の腕が背中に回り、俺は息も出来ないくらいに愛しい気持ちを更に知る事になった。





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