MAIN2[虎伏宿etc現在の話]

□パラドックス
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 1年生ふたりに任務を告げた時、初めて見るその補助監督は非常に微妙な表情(かお)をしていた。今日は担任の五条がおらず、2年のパンダと狗巻も別任務で不在。禪院はどこに行ったのか知らないが、朝から顔を見ていない。他の学年も同様だ。
 なので、今、残っているのがそもそも伏黒と釘崎のふたりだけだった。

「低級なので、おふたりでも大丈夫です」
 そう、補助監督の男は言った。釘崎はともかく、伏黒はすでに二級呪術師だ。今回の対象はそれ以下ということだろう。
「さっさと行って、さっさと倒しちゃいましょ」
釘崎もやる気満々だ。ところが、男はまだ何か言いたそうで、とても言いにくそうにしている。
「何か厄介なことでも?」
伏黒が問うと、男は伏黒から目を背けながら持ってきた袋を開いた。



「その呪霊、女性の前にしか現れないんです」
 袋の中から、女性物の服一式と長髪のウィッグが現れた。



 車に乗せられ、男の運転で任務地へ。伏黒がふて腐れて窓の外を見ている横で、釘崎が声を出さずに笑っている。現場に着くとすぐに男によって「帳」が下され、作られた夜の結界の中には伏黒と釘崎のふたりだけ。
「おら、さっさと祓ってさっさと帰るぞ!」
先に立って伏黒が歩いていく。
「・・・ちょっと伏黒、そんなにドカドカ歩いちゃダメでしょ・・・ぷっ」
肩を震わせながら、後を追う釘崎。釘崎はいつも通りの制服だが、伏黒は黒のセミロングのウィッグに淡いピンクのロングスカート姿だ。よくサイズがあったものだと思うが、それなりに女性のように見えるから不思議だ。

「いつまでも笑ってんじゃねぇよ!」
 若干キレ気味の伏黒は、ズンズン進んでいく。ほぼやけくそである。が、しばらく行ったところで急に立ち止まった。何かの気配がする。遅れてきた釘崎もそれに気付き、笑いをおさめた。
 ふたりが並んで立つと、前方に徐々に人影のようなものが現れた。呪霊だ。確かにそんなに強くは無さそうである。とはいえ、油断は禁物だ。用心しながらゆっくりと近付く。

 相手の顔がはっきり見える辺りまで行くと、呪霊が首を傾げるような仕草をした。そして、伏黒と釘崎を交互に見る(目がどこかはよくわからないが)。
「お・・・お・・・おんな・・・」
どうやら話ができるようだ(口もどこだかわからないが)。伏黒のことも、ちゃんと女性として認識しているらしい。釘崎は吹き出しそうになるのを必死にこらえた。
「お・・・んな・・・」
呪霊が言葉を続ける。そして、枝のように細い腕を上げると伏黒を差した。

「こ・・・こっち・・・び・・・じん・・・」



 ピシリッ。
 そんな音が聞こえたような気がした。音の出どころが気になり伏黒が横を向くと、釘崎が鬼の形相で釘と金槌を構えていた。
「な〜ん〜だ〜とォォォ〜〜〜!!!」

 そこから先はあっという間だった。思わず呪霊に同情したくなる程度には、釘崎の攻撃は破壊力抜群だった。「美人」と言われた伏黒も結構ショックだったが、女の自分より男の伏黒が言われたことへの怒りが、釘崎をより凶暴にした。
「女って怖えぇ」
 改めて感じた、伏黒少年。出番は全く無かった。

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