MAIN[学生夏五中心]

□SERAFINE
1ページ/1ページ

 実家を出て、学校の寮に入ることになった。4月からは東京都立呪術高専の生徒だ。京都校からの誘いもあったが、より実家から遠いという理由で東京校入学を決めた。

 今年の新入生はたったの二人だと言う。僕ともうひとり。中学が1クラス34人いたのに比べると、なんという少なさ。さすが呪術界、安定のマイノリティーだ。

 入学の儀とは名ばかりの学長との面談を終えると、担任である夜蛾先生に連れられ1年の教室に入った。そこには、薄っすらと笑みを浮かべ肩に届く程に髪を伸ばした少年がいた。彼がもう一人のクラスメートか。

 一番前の席に座っていた彼は、立ち上がるとこちらに歩み寄った。
「夏油傑」
「五条悟」
名前だけしか言わない、なんとも素っ気ない挨拶。握手の一つも無い。サングラス越しに見た相手は、口許に笑みを貼り付けたまま、僕の顔も見ずに席に戻った。



 その後しばらくして、僕らは揃って実習という名の初任務に駆り出された。それまでの数日間、僕らは必要最小限以外の会話を全くせず、互いの顔もまともに見ないような日々を過ごしていた。席は隣、寮の部屋も隣(これは後から夜蛾先生の嫌がらせ・・・もとい要らぬ配慮と判明した)、学科授業も体術修行もずっと一緒だったにもかかわらず、だ。
 夜蛾先生に連れてこられたのは、高専の最寄駅から2駅ほど行った町の、小さな小学校だ。いや、小学校だった建物。高専が山奥と言っても過言ではないような、とても東京都内とは思えないような立地であると同様、2駅離れていてもこの辺りは都会に比べて人口もかなり少なく、より便利な土地を求める人口流出の煽りを受け、ついに廃校となってしまったようだ。

「あれを全部祓ってこい」
 ・・・先生、指示が雑です。心の中でこっそり呟き、僕と傑は揃って校舎に足を踏み入れた。



 結果から言えば、呪霊退治は無事完了した。お互いの術が足を引っ張り合い、時間はかかるわ怪我はするわ散々だったが。呪いを喰うなんて聞いてねぇぞッ!!!
 そんな僕らを見て、夜蛾先生は呆れたように一言言った。
「下手くそか」
 その瞬間、僕らの中で何かが弾けた。僕と傑は初めて互いの顔を数秒見つめると、大声で笑い出した。それが更に夜蛾先生の呆れを誘ったのも気にせずに。腹の底から可笑しさが次々とこみ上げ、怪我の痛みも忘れる程大いに笑い合った。あぁ、なんか上手くやれそうだ。

 傑の胸の内に良からぬものがあることに気付いたのは、それからだいぶ後のことだった。けれど、僕はそんなこと欠片も知らぬふりをして、彼との友情を深めていた。いや、深めているつもりだった。だって、僕にも思う未来はある。
 ここから僕らがどこへ行くのか。何ができるのか。卒業した後も一緒の未来を歩めるのか。それとも・・・。

 今の僕らはまだ知らない。肩を並べ歩くこの道の先に、静かに、しかし確実に訣別<わかれ>の時が待っていることを。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ