MAIN[学生夏五中心]

□SO SWEET SO LONELY
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 悟が時々いなくなる。呪術高専の同級生であり学生寮の隣で暮らす夏油傑がそれに気付いたのは、1年生の2学期が始まってしばらくしてからのことだった。
 隣室の住人・五条悟とは、この学校に入学してからの付き合いだ。ふたりしかいない彼らの学年、仲良くなるのは必然であった。授業も訓練も一緒、寮で過ごす間も一緒、少しずつ増え始めた校外での任務もほぼふたり一緒に駆り出されている。たまに休日の昼間は別々に過ごすこともあるが(傑は大体部屋に引きこもっている)、周囲の人間から見れば四六時中一緒にいるのと同じだ。オマエら夫婦か!・・・先輩達がそろそろそんな認識を持ち始めていることなど、当の本人達は全く知らなかったが。

 だが、そんなに一緒に行動しているふたりでも、実は互いの趣味嗜好や誕生〜高専入学に至るまでの過程はそれほど把握してはいなかった。性格と言ってしまえばそれまでだが、別にそんなもの知らなくても普段の生活は何も困らなかった。なので、お互い特に尋ねることもなく、今日まで過ごして来たのだった。



 その日も、悟は朝食が済むとすぐに自室に戻った。長かった夏がようやく終わる気配を見せ、秋らしいさわやかな風の吹く日曜日の朝。翌日の訓練のことで訪ねてきた先輩と傑が部屋の前で話をしていると、隣室から悟が現れ先輩に向かってペコリと頭を下げ、そのまま廊下の先に消えていった。

「おい、あいつ最近すぐどっか消えるよな」
 悟の消えた方を向いたまま、先輩が言う。彼も同じことを感じていたようだ。
「あいつがどこ行くか知ってるか?」
「・・・いえ」
いくら隣同士とはいえ、オフ日の行動までは知らない。傑はそう答えたが、先輩は納得していないようだ。廊下の先を顎で示しながら、
「おまえ、ちょっと尾行しろよ」
「・・・は???」

 興味が無かったかと問われれば、そうでも無い。ここ数週気にはなっていた。だからと言って尾行!?そんなの考えもしなかった。
(先輩に言われたからだ)
 心の中で自分に必死に言い訳する傑。が、やはり気になってはいたので断りきれず、財布と携帯を引っ掴むと早足で悟の後を追った。幸い悟はまだ高専敷地内にいて、門を出る後ろ姿を見送りつつ、傑もゆっくりと歩き出した。



 悟は後を振り返ることもなく、坂道を下っていく。駅までの一本道。傑は、視線や足音で気づかれないように、距離を取りながら歩いていく。やがて駅に着くと、悟は路線図を確かめることもせず券売機にお金を入れる。え、今いくら入れた!?柱の陰に隠れている傑には金額まではわからなかったので、押したボタンの位置から推測して適当に買った。どうやら山手線沿線まで出るようだ。
 ホームに行くと、ちょうど来た電車に乗るところだった。バレないように、けれどギリギリ悟は視界に捉えられるように、隣の車両に滑り込む。途中で1度乗り換え、着いたところは渋谷だった。
 ・・・あれ?切符の金額がちょっと足りない!悟は改札を出てどんどん進んでいく。慌てて清算口に並ぶ傑。ようやく改札を通り抜けたが、悟の姿が消えていた。と思ったら、通りの向こうに頭一つ分大きい男を見つけた。こんな時はあいつがデカくて良かった。

 付かず離れずの距離を保ち、傑は悟を追いかける。
 やがて、1軒の少し古びた建物の前で悟が止まった。映画館だ。今流行りの最新作では無く、どうやらリバイバル作品を扱っているようだ。映画にはあまり興味の無い傑だったが、貼ってあるポスターには見覚えがあった。女優の方は確かオードリー・ヘプバーンじゃなかったっけ?
「意外だな」
悟ならアクション映画でも見そうなものなのに。いや、そもそも悟と映画っていう組み合わせが驚きだ。しかも、ここに来るのは初めてじゃ無さそうだ。駅から迷わずここに向かって歩いてきた。

 悟が館内に消えた後、傑も入り口に近づいてみた。自分も中に入って、悟の横にでも座ってみようか。きっと驚くだろう。想像して少し笑ってしまったが、それはやめた。悟だってひとりになりたいこともあるだろう。
 しばらくなんとなくポスターを眺め、それに飽きると傑は元来た道を戻り始めた。駅に着く直前、急に雨が降り出した。天気予報なんて見ていない傑は、当然傘を持っていない。雨に濡れて額や首に張り付く髪を不快に思いながら、傑は高専方面に向かう電車に飛び乗った。




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