MAIN[学生夏五中心]

□JUNK
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 洗濯機が壊れた。

 夜は明けたものの外はまだ薄暗い、1月のある寒い日。朝食が終わって洗濯物の様子を見に来た悟は、学生寮共用スペースの洗濯室で、排水をしないまま止まっている洗濯機を前に呆然としていた。

 東京都立呪術高等専門学校、通称呪術高専。呪術師の卵の育成機関で、呪術師なんていう少数派(マイノリティー)の中の少数派、学校とは名がつくものの大した人数はいなかった。悟達1年生も、今年は悟と傑と、先日中途編入した女子・家入硝子の3人だけである。他学年も似たようなものだ。なので、寮には洗濯機が1台しか無かった。
 いや、もう1台あるにはあるのだが、「女子専用」と張り紙がしてあり、しかも今は中身が入ったままのようだ。



 電源は入っており、スイッチを押せば動き出す。ボタンを押して脱水に合わせスタートさせると、14〜5秒はガタガタとやる気を見せる。だが、そのうちガタリ!と派手な音を立てて停止する。さっきからその繰り返しだった。中身が偏っているのか?と平らにしたり位置を変えたりしてみるが、何度やっても同じだ。
 そして、数回目。
 ついに洗濯機は完全に沈黙した。



 中にはたっぷり溜まったままの水と、大量の洗濯物。冬で1度に着るものの量が多い上に、そこは悟も男子高校生、何日分か溜めていた。電源もいつの間にか切れてしまい、どのボタンを押してもウンともスンとも言わない。これが終わっていたらとっとと干して、学校に行こうと思っていたのに。
 そこに、傑が通りかかった。制服に身を包み、首にマフラーだけ巻いている。それでも寒いのか、今日は長めの髪を下ろしていた。校舎は同じ敷地内なので、登校くらいならコートは羽織らず真冬でも割と軽装だ。

「悟、何してんの」
「・・・壊れた」
「え?」
 傑が洗濯室の中に入ってきて、洗濯機の中を覗き込む。
「あらら、水も残ってるじゃん」
「うん・・・どうしよう、これ?」
少し考えた後、傑が手で雑巾絞りの真似をした。
「絞るしか無いんじゃないの」
「やっぱりか〜」
ガクリとうなだれる悟。その肩を軽く叩き、傑は洗濯室を出ていく。
「先行くよ」

 傑を見送り大きなため息をついた悟は、改めて洗濯機の中を覗いた。
「これを手で絞るって?」
悟の口から愚痴が溢れる。一瞬、もう1台の洗濯機をと思ったが、そう、中身が入っている。さすがに女子の洗濯物を触る訳にはいかない。
 これはやるしかないな。悟は、意を決して水の中に手を突っ込んだ。冷たい。

 1枚ずつ、取り出しては絞る。取り出しては絞る。地味で単調な作業だ。絞った物は洗濯室の外の物干し場へ。下着やシャツくらいなら良いが、ジーパンは辛い。厚みと固さでまとまらない上に、大きくて絞りにくい。足先から少しずつ絞っていくが、全然水気が切れない。腰回りは硬すぎて、そもそも絞ることもできない。それを数枚。悟は、洗濯物を溜めてた自分を罵りたくなってきた。



 その頃、先に教室に着いていた傑は、夜蛾先生と向かい合っていた。
「おい、悟はどうした」
「洗濯物と格闘してます」



 悟の携帯に夜蛾先生からの怒涛の着信が届いたが、そんなもの出る余裕も無い。取り出しては絞って干し、取り出しては絞って干し・・・。やっと全部の洗濯物を干し終えた時には、始業から既に1時間が経っていた。ここでようやく携帯を取り出した悟は、先ほどの大量着信を目にする。
「やべぇ」
 大慌てで洗濯室を飛び出し、着替えのため自室に向かって走り出した・・・廊下は走っちゃイケマセン。



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