MAIN[学生夏五中心]

□I CAN HEAR THE RAIN
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 悟の部屋には物が多い。普段適当でいい加減でフラフラしてることが多く、部屋なんて帰って寝られれば良いとでも思ってそうな男だが、意外と物が多く、それでいて整っている。ここを終の住処にでもするつもりか?と感じてしまう程度には、あれやこれやが揃っている。一番多いのは書棚にびっちり詰まった本だが。

 特にそう思わせるのが、冷蔵庫だ。寮の食堂にも学生達が自由に出し入れできるものがあるのだが、悟は自室に自分専用を置いている。任務で貯めたお金で、2年に上がる直前買ってきたものだ。どうやら昨年の夏に暑い中スーパーまで出かけたのが堪えたようで、暑くなったら飲み物やアイスをいつでも取り出せるようにしたかったのだとか。

 それなら先にエアコンでも買えばいいものを。と、隣室の傑は思ったが言わないでおいた。ちゃっかり自分もソレを使っているからだ。寮の1階にも自販機はあるが、高専前の坂道を下りたところにあるスーパーの方がずっと安い。店の前を通るたびにお気に入りのペットボトルや缶飲料を買っては、悟の部屋の冷蔵庫に補充していた。時々悟に飲まれてしまうこともあったが、使用料だと思って諦めている。



 ある日の昼前、傑は悟の部屋を訪れた。ゴールデンウィークも後半、晴れの日が続いて暑く、冷蔵庫の使用頻度も上がっている。悟は部屋にいて、ベッドに寝転がって本を読んでいた。開け放った窓から、涼やかとは言い難い風が流れ込む。
「邪魔するよ」
「ん」
 本から目を離さず、悟が返事をする。集中している時はいつもこんななので気にしない。勝手に冷蔵庫を開け、目当ての物を探す。
 が、今日は開けてすぐ、見慣れないものが目に飛び込んできた。

「悟。これ、何」
 冷蔵庫の中央に真っ赤な袋がある。昨日まではこんなものは無かったはずだ。
「あぁ、忘れてた。それ、硝子から。僕と傑にお土産だって」
「家入?お土産?」
「うん、任務でどっか行ってきたって・・・どこだっけ?」
自分の分でもあると聞いたので、取り出してみる。裏返すと、ゴリラのイラストが描いてあった。
「ゴリラの鼻くそ・・・鼻くそ!?」
傑の反応に、ようやく悟が顔をこちらに向けた。
「うん、甘納豆だって」
「これ食べるのかい!?」
「傑も食うんだよ、鼻くそ」
悟が笑う。「僕と傑に、だからね」

 これは土産というよりふたり(主に自分)に対する家入の嫌がらせだな。傑はこっそりそう思った。けれど、楽しそうに笑う悟の顔を見て、これもやっぱり言わないでおいた。さて、鼻くそとやらはどんな味がするのだろう。



「ところで、なんで冷蔵庫に?」
「いや、最初チョコかと思ったんだよね」



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