DREAM御曹司

□天気予報図
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暗い部屋にぼんやりと光を受け浮かぶ一人のシルエット。

眠ろうとすればするほど冴えていく、意識。

諦めてテレビのリモコンを握った彼女の眼の前には、窮屈そうに並ぶ等圧線たちが天気の移り変わりを示している。

ベッドの側面に寄りかかり膝を抱えながら、チカチカと明滅する画面に照らされたテーブルの上に視線を移動させれば――絡まってしまった三本のネックレスが、どうしてくれるのかと文句を滲ませながら横たわる。落ち着いた精神と認識力が上手く噛み合わなければ、この『メビウスの輪』は解けないのだ。只でさえ感情が縺れた状態の彼女には、まだできそうになかった。

ああ、彼がここに居たのなら。あの節ばった指で、器用に外してくれただろうに。


喧嘩をした訳ではない。たいていは彼に収められてしまうし。

冷めた訳でもない――寧ろ前よりも想いは深くなるばかりで。



――もしも、正剛に、他に…好きなひとができてしまったら――



一方的で酷く後ろ向きな考えであるのは判っている。些細な引っ掛かりを拾い集めて挙げても、きりがないと。

けれど最近、夜が更ける度に不安になっていく。幾ら頑張って自分磨きをしても自分に自信なんてないし、立場の釣り合いがとれるとも思っていなかった。

きっとこんなことを聞いたら、正剛は大きな掌で彼女の髪をくしゃくしゃと交ぜて笑うだろう。そんなことありえないって、何度も言いながら。

膝にぽろりと零れ落ちる涙が、淡い桜色のパジャマに水玉模様を作っていく。

じわりじわり広がる面積。



――約束なんて、どうなるか判らないでしょ……?



ワガママな自分に嫌気がさす。


故郷を離れ一人暮らしを始めて、もう随分慣れたつもりだった。

ドアの鍵を開けてすぐの暗い玄関にも、いただきますの響く狭い食卓にも、夜中の階上の物音にも。


でも――

あなたに出逢ってしまった。

あなたを知ってしまった。

もう忘れることなんてできないから――


気持ちを素直に曝け出せばいいんだよって、もう一人の自分が囁いた瞬間。


この嵐が通り過ぎていくような予感がした。
 

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