DREAM御曹司
□夜明け前
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『夜明け前』
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窓がカタカタ鳴っている。
風が強く吹きつける夜、11時過ぎ。
ふと手を休めて窓の外を見上げると、月は誇らしげに笑みを湛えていた。
―――逢いたい。
ぬめる機械油を手近なぼろ布で無造作に拭うと、正剛は携帯と煙草を取り、ガレージから出た。
風が彼の青みがかった髪を揺さぶる。これで吸える訳無いじゃないか、と目を細めた。
この風は何処から来て、何処へ行くんだろう。
そんな取り留めの無いことを考えながら、どうしようもない焦燥感がまた胸に過る。
『明日大学でまた会えるじゃないか』
携帯には、アイツの着歴。無粋なことを言った己を悔いた。
こんな時間には気を遣って滅多に電話をかけてこないというのに、何かあったんだろうかと今更思う。
俺だって、少しの時間でも離れるのが辛いんだ。
それに。
いまオマエと顔を合わせたら…俺、止められそうに無いんだよ…。
ポケットにあるバイクの鍵をぐっと握り締め、今晩何度目になるか分からない溜息をつく。
―――それでも。
エンジンの音が闇を切り裂く。
一目あの笑顔を見る為に、正剛も街を吹き抜ける風になった。
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