DREAM御曹司

□夜明け前
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『夜明け前』

*****

窓がカタカタ鳴っている。

風が強く吹きつける夜、11時過ぎ。

ふと手を休めて窓の外を見上げると、月は誇らしげに笑みを湛えていた。


―――逢いたい。


ぬめる機械油を手近なぼろ布で無造作に拭うと、正剛は携帯と煙草を取り、ガレージから出た。

風が彼の青みがかった髪を揺さぶる。これで吸える訳無いじゃないか、と目を細めた。


この風は何処から来て、何処へ行くんだろう。


そんな取り留めの無いことを考えながら、どうしようもない焦燥感がまた胸に過る。


『明日大学でまた会えるじゃないか』


携帯には、アイツの着歴。無粋なことを言った己を悔いた。

こんな時間には気を遣って滅多に電話をかけてこないというのに、何かあったんだろうかと今更思う。


俺だって、少しの時間でも離れるのが辛いんだ。

それに。

いまオマエと顔を合わせたら…俺、止められそうに無いんだよ…。


ポケットにあるバイクの鍵をぐっと握り締め、今晩何度目になるか分からない溜息をつく。


―――それでも。


エンジンの音が闇を切り裂く。

一目あの笑顔を見る為に、正剛も街を吹き抜ける風になった。



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