DREAM御曹司
□嬉しい誤算
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今日は、正剛が久しぶりにあの海の見えるレストランに連れて行ってくれるという。
時間きっかりに彼はアパートの下へ来てくれたけど、着て行く服にギリギリまで悩まされ、私の支度が遅くなってしまった。炎天下、外で待たせるのも悪いので、少し上がってと部屋へ通した。
「お待たせ!後は靴を履いておしまいです」
玄関で靴を履こうと屈んだ時、ドアポストに何か入っているのに気がつく。
「うー……」
それを手に、思わず唸る。
「ん?」
私は少し後ろに立っていた正剛を見上げ、情けない顔でそれをヒラヒラさせた。
「電気料金の、お知らせ。先月より増えてる…あ、そういえば暑くてエアコンに頼ってばっかりだったか…。テレビつけっぱなしで寝ちゃったことも結構あったし」
思い当たるフシにがっくりと肩を落とす。確か数日前に来た水道代も、増えていた。節約も大事だけど、やっぱりそろそろ、バイトしなくちゃダメかもしれないなぁ。仕送り少し増やして、なんて絶対に言えないし。
ため息をついた私の肩越しに、私のヘルメットを脇に抱えた正剛が顔を寄せて、その紙を覗き込む。やだな、耳の辺りがちょっとくすぐったいよ…。
「ふーん、一人暮らしって大変なんだな。……」
暫くそれを眺めていた正剛が急に黙ってしまう。
「なあに?」
「…いや、……」
少し首を傾けて、彼を見る。
微かにする、煙草のにおい。
やや頬を赤らめている。何だろう?
「……一緒に住んだら…負担も掛からなくなるよな…」
「!!」
「その…ずっと居られる訳だから…何かあった時も対処できるし…」
「せ、正剛…」
私は嬉しさと驚きで何も言えなくて、彼の首に抱きついた。反動でヘルメットが、ゴン、と大きな音をたてて転がっていく。
「うわっ、下に響く!!苦情来ちゃうよ!!」
慌てた私が体を離そうとすると、彼の腕に力が籠った。
「そういう心配も、いらなくなるだろ…?」
正剛の鼓動は、速かった。
「うん…」
私は温かな腕の中で、とびきり幸せな時間を味わった。
「…ヤバい…レストラン、行きたくなくなってきた…」
「ちょっ…、何言って…」
彼は広い肩を震わせて冗談だよと笑うと、
「でも…考えておいてくれよ?」
と微笑んだ。
fin.