DREAM御曹司

□夏の終わり
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8.26追加 『夏の終わり』




夕暮れの風は、もう秋を帯びている。

微かに鈴虫の鳴き声――。

河川敷にはさわさわと揺れるススキが繁り、きらきら反射する川面を見せては隠す。

ベンチと私達の影は金色に光る地面を薄暗く塗り替えていた。

後ろを時折通る、犬と飼い主の足音を背に――

正剛は、そっと私の右手を握り締めた。



何も言わなくても私には分かる



夏が燃え尽きるように終わっていく、この瞬間も

秋が静かに深まっていく、この瞬間も

その先の季節も、ずっと

こうして一緒に見つめていよう

たとえすぐ傍で微笑みあえなくても

こんな風に温もりを重ねられなくても

同じ空を見ている

確かにあなたはそこに居る――



朱く染まる精悍な横顔を見つめながら、私は繋いだ手に力をこめた。

この想いが、染まっていくようにと…。



愛してる

この命が尽きるその瞬間まで

あなたを離したくないの――



もう一方の大きな掌が、私の頬を撫でていく。



「…泣いてるのか…?」



悲しげな瞳をした、私だけの優しいひと。

私は軽く首を振って、彼の肩に頭を寄せる。



太陽が、最期の光を空に放ち――

紫のカーテンには小さく星が瞬いていた。



「もう暫く…ここに居させて…」



彼は小さく頷いた。




 

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