HIKARI†

□3歩歩けば
2ページ/4ページ

 


『――で、どこに月の門があるのかなー?』



誰かに問い掛ける訳でもなく、わざとらしい笑顔でそう言いながら辺りを見回した。
瞳に映るは砂漠。なーんにもございません。
ていうか建物すらないってどーなのよ……。



「ここら辺は風の国にも広がる乾燥地帯です。恐らく東へ向かわないと、次の国には入れないでしょう」



ルナは東を指しながら言った。
心なしかルナの表情が曇っている。それ程東に行くのは大変らしい。



『ていうかルナ、敬語遣わなくていいよ』



身長もそんな変わりなく、見た目からして同い年だろう。直感でそう思い、ルナに呼び掛けた。
だって私なんかもう既にため口だし、ルナだけ敬語なのはちょっと変じゃん。

大きく見開かれた瞳。そして申し訳なさそうにルナは言った。



「そう、ですか?リノさんがいいなら構いませんが…」

『うん、いいよ。ていうかルナ16歳でしょ』



千年に一度、同じ年に生まれたんだから、確実に同い年だよ。



「はい…あ、うん」

『よろしい!』



自分で言って何様だと思ったけどあえてツッこまないでね、読者様!



「じゃあ行きましょう」



そして私たちは歩き始め…………ないで私だけ立ち止まった。
それに気付いたのかルナも立ち止まり、不思議そうな目で私を見ながら、クエスチョンマークを浮かべている。



「どうしたの?」

『ねぇルナ……』

「うん」

『今までそんなに気にしてなかったけどさ…』

「…うん」

『ルナの瞳って、左右違う色してるよね』

「え…?あ、うん」

『どうしてそうなったの?』

「え………」



我ながら唐突で難しい質問。だって気になるじゃん。
案の定、ルナは視線を泳がせて、回答に困っている。

ルナの右目は翡翠のような翠色で、左目は大空のような蒼色。どちらも澄んだ色で、すごく綺麗。
もう一度瞳を見て、やっぱり綺麗だと思っていたとき、ようやくルナが口を開いた。






「………自分でも、分からないの」



『え…、分かんないの?なんか事故で片目を失って恩人から片目もらったとか!』

「そういうのは、憶えてない。…わたし、5歳くらいの記憶が無いの」

『え……っ!?』

「ちいさい頃はちゃんと両目、翠色だった……。けれど、5歳くらいの記憶が曖昧…というか全く無くて、気がついたら、左目は蒼色になってた」



何かに怯えたような目で話すルナ。
きっと、ルナは自分が怖いんだ。
何があったか分からない時間に変わった外見。記憶の中の5歳の自分は居無い。
そりゃ怖くもなるよ。



『大丈夫だよ、ルナ。誰もルナを責めないし、自分に怯えなくていいよ』

「リノ…。……リノは、わたしが怖い?わたしを避けたりする…?」

『怖くないよ。それに、避ける必要がどこにあるの?』

「…有難う、リノ」

『えへへ、どーいたしましてっ』


そう言って笑った後、ルナも微笑んだから少し安心した。
ルナの笑った顔が綺麗で、女の私でも、どきっ、としてしまった。瞳の色がそうだから、っていうのも多少あるだろうけど、そうでなくてもルナは美人だ。

……ルナ。怖いことは、深く考えなくていい。でも、忘れちゃいけない。そういう心も、いつかは強さに変わるから。

このとき、ずっとルナの成長を見守っていたいと思った。
もう二度と、この綺麗な笑顔があの時のように…涙で崩れないように……―――。


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ