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□イジワル
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『イジワル』



風が強い日だった。
ガタガタという窓の音とうるさいぐらいのすき間風の音が耳障りだ。

「朝はここまでではなかったのに凄い風になってきましたね」

幸村が書類を整理しながら呟いた。

「ああ…」

ため息のような返事を返しながら生徒会室の扉に視線を移しなかなか戻って来ない彼女を待っていた。

「碓氷さんだから心配いらないとは思いますが…雨は降らないようですけどこの風ですから気をつけて帰って下さいね」

そう言うと仕事を終えた幸村は叶と一緒に帰って行った。
正確にいうと叶が幸村を連れて行った…かな。まだ会長が残っているから帰れないと言う幸村を叶は碓氷さんがいるから大丈夫だと言って帰るよう促していた。

「変な気を使いやがって…」

叶に感謝しながらこれで二人っきりになれる嬉しさで口元が緩む。

なかなか戻って来ない彼女が次第に心配になった頃携帯が鳴った。
電話は彼女からで念のために持たせた携帯がどうやら役に立ったらしい。

「やっぱり俺も一緒に行けばよかったでしょ?」

『わ、悪かったなッ!』

怖がりな彼女がこの風の音がする校内を一人でまわろうという事がそもそも間違いなのに強がりな性格が一緒に行くという俺を拒んだ。

「で、今何処にいるの?迎えに行くよ」

『図書室の近く…』

怯える声を可愛いだなんて言ったら怒鳴られそうだ。

「今すぐ行くから携帯そのままで…俺の声に集中して」

最後には頼ってくれた事を嬉しく思いながら彼女が待つ場所へと急いだ。
きっと泣きそうな顔して俺を待っている。
携帯で冗談を言ってからかいながら走った。
やがて彼女がしゃがみ込む姿が見えた。
きっと彼女は「遅い!」って怒鳴るだろう。
そしたら強く抱きしめて「ごめん」と謝ろう。
無理矢理にでもついて行けば良かったのに素直に俺を頼らない君に少し意地悪してしまったのだから…。





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