Novel・2

□不機嫌な兄貴
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「さっきの男と美咲はどういう関係?」

表情は変えず真っ直ぐ前を見たまま車を運転する兄の声に冷汗が出る。

明らかに機嫌が悪い。

「た、ただの…ク、クラスメートだよ…」

「ふぅ〜ん…」

いつもなら『美咲ちゃん』と呼ぶのに呼び捨てだ。
これは大きな地雷を踏んだらしい。
非常に厄介だ。

学校が終わり兄貴が迎えに来る待ち合わせ場所に向かっていた。そこに着く前に偶然クラスメートの男子に会ったのだ。そしてたまたま躓いた私を支えてくれたのだがタイミング悪くその場面だけを兄貴に目撃されたようだ。要するに抱き合っていたように見えたのだろう。もちろんその男子とはただのクラスメートだしお互い恋愛感情なんてない。偶然が重なっただけなのだ。

説明はしたものの気まずい空気の車内に酸欠になりそうだ。



*******

マンションに着くと逃げるように自分の部屋に入り大きく息を吐き出した。
いつもはとても優しい兄貴だが最近、静かに怒っている時が増えた…ような気がする。
兄貴によると私の無防備さが原因だとか…。
人のせいにしやがって…。

着替えてからそっとリビングの様子を伺うと薄暗いリビングで兄貴がソファに座りため息をついていた。
最近、たまに見る光景だ。それは夜中に目が覚めた時に何度か見かけた。

やはり原因は私なのか?

私は兄貴の負担になっているのだろうか…。

私は恐る恐る近づき兄貴の目の前に立ち「ごめん」と呟いた。
すると兄貴がそっと手を握ってきた。

「謝るのは俺の方だよ…ごめん。最近、独占欲がどんどん強くなってきて…怖がらせるつもりじゃなかったんだけど…」

私を見上げる兄貴の顔に胸がギュッと締め付けられた。

「嫌いになった?」

「嫌いになる訳ないだろ!」

この世の終わりみたいな…何て顔してんだよアホ兄貴…。

私は兄貴の隣りに座り抱きついた。

「独占欲が強くてシスコンな厄介な兄貴だけど他の誰よりもココが一番居心地がいいって…思ってる…と、とりあえず今のところはなッ!」

恥ずかしいから顔は兄貴の胸に押し当て隠した。

私が兄貴にとって負担だとしてもまだこの腕から離れられそうにない…ごめん。

「だから無防備だって言うんだよ…」

ため息と一緒にギュッと抱きしめられた。頭を撫でられ幸せな気持ちに満たされる。そしていつものように私を甘やかす兄貴の声に頬が緩む。

だって私は兄貴が…

…ん?何だろう?

出かかったのにドキドキとうるさい自分の心臓の音にその言葉は掻き消されてしまった。

ま、いっか…。

「無防備って何がだよ!シスコンアホ兄貴のくせにッ!」

私は緩む口元で悪態をついた。




End
2010.1.10

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