気まぐれ短編集
□恋愛宣言5
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「はいv」
黙々と勉強する彼女の口にマカロンを入れた。
これは紗奈ちゃんが当てたお菓子の詰め合わせらしい。マカロン以外にもクッキーやマフィン等たくさん入っている。彼女はそれを持って俺の所へ来ていた。
昔から勉強はよく一緒にやっているが珍しく1週間ぐらい来ていなかった。
久しぶりの二人っきりの勉強会に俺は少し浮かれ気味だった。
なのに―――。
「コーヒーのおかわりは?」
「うん…」
さっきから生返事ばかり。俺はちょっと不満だけど怒らせて万が一アイツ…深谷の家になんか行かれては困る。
ただでさえムカつく事にアイツは彼女と同じクラスなのに…。これ以上一緒に過ごす時間を増やしてたまるか。
だけどさっきからこうやって餌付けのように口にお菓子を入れて飲み物がなくなればおかわりを用意して…と、こんなに尽くしているのに話しかければ生返事だけで目線すら合わせてくれない。ちょっとどころかかなり不満かも。
だけど―――。
「あっ、ミサちゃん。そこSがひとつ抜けてる」
「あっ!本当だ。サンキュ」
勉強に関する事には笑顔なんだもんね。
なんだかズルイ。
無自覚とはいえその笑顔はズルイ!さっきまでの不満を消しちゃうんだから。
そのかわり今ので欲が出ちゃったけどねv
「ねぇ…ミサちゃん。そろそろ1回休憩したら?」
「…そうだな。ちょっとだけ休むか」
そう言うと彼女は大きく背伸びをした。
俺は甘い時間を過ごすため彼女に手を伸ばした。
その手は彼女を引き寄せて抱きしめるはずだった。
「やっぱりお前ん所で勉強するとはかどるなぁ。ヨウ君は集中力が足りないから休憩ばかりになるんだよなぁ。まぁ今回は1週間よくやったと褒めるべきか?」
え?どういう事?
「あっ!そうだ、これ旨いな」
俺の動揺など気がつかない彼女は笑顔でマカロンをつまんだ。俺は伸ばした手で彼女の手首を掴み抱きしめるかわりに彼女が持つマカロンを食べた。
「なっ!おまっ…指まで…ッ!」
「確かに美味しいねv」
そう、わざと指まで口に含んで…それもいやらしく舐めた。
これは俺の小さな『お仕置き』。
真っ赤になって慌てる彼女の姿を見てニヤリと笑うとコーヒーを飲み干した。
「ゆ、指まで食うなッ!」
本当は物凄ぉ〜く我慢して指だけだったんだよ?
だけどやっぱりダメだ。そんな上目遣いで可愛い顔されたら…。
「っん…!」
少し強引なキスをひとつ。
「…ニガッ!」
ゴメン。ブラックでコーヒーを飲んでたからね。
無自覚、無防備な彼女には苦いキスで『お仕置き』を―――。
「俺よりアイツ優先?もしかしてアイツと二人っきりで勉強してた?」
「だ、だって…ほらヨウく…し、深谷は成績が危なくてだなぁ…昨日のテストで何とかしないといけなかったし…それに幼なじみだろ?…そ、それから二人っきりじゃなくて紗奈がいた日もあるぞ!」
ため息が出た。
彼女にとってアイツと俺はあまり変わらない位置なんだろうか?
それに毎回紗奈ちゃんがいた訳じゃないって事だよね?
「じゃあ、百歩譲って次からは俺も含めて3人で。二人っきりは禁止…ね?」
本当は3人もイヤだけどね。
「お、おう…」
世話好きだから…幼なじみだからほっとけないんだよね?
『特別』な理由は…ないよね?
言わないけどたぶん顔に出たんだろう…。彼女が少し慌てて言った。
「い、一応…言っておくが…深谷の所には…お菓子は持って行ってないからな!」
真っ赤になった彼女。
わかりにくいけど…それって俺を『特別扱い』しているって事で良いのかな?
自惚れなのかもしれないけど俺は小さく笑うと最後のマカロンを口に運んだ。すると口の中に甘いマカロンの味が広がった。
今度は苦くない甘い口づけを…ね?
END
2010.6.16